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〜ITコンサルタントの眼〜
「勘違いユニフォーム会計」

週刊HOTERES03/5/2掲載 
有本孝治 



■ ユニフォームシステムは、ソフトパッケージか?  

最近、いろんなホテルからユニフォームシステムを導入したいという依頼があります。ある程度、ユニフォームシステムの知識は、雑誌等から持っておられるようなのですが、大変な勘違いの一つは、ユニフォームシステム自体をコンピュータ・メーカーが持っているソフトパッケージという勘違いです。実際、依頼内容は、「ユニフォームシステムのデモと説明をしていただけませんか?」というような依頼が結構多いのです。 ユニフォームシステムは、メーカーのソフトパッケージでいうシステムでは無く、ホテル会計の考え方を表した基準であるのですが、実はシステムという言葉が問題なのです。ユニフォームシステムは、英語表記で「Uniform System of Accounts for the lodging industry」となりますが、冒頭にあるユニフォームシステムというところが、パッケージシステムソフトとの誤解を生んでいるようです。 ユニフォーム会計(以下ユニフォームシステムをユニフォーム会計と統一して記すことにします)を簡単に説明しますと、正式な呼び名は、先に述べたように「Uniform System of Accounts for the Lodging Industry」で、日本では「米国ホテル会計基準」とか、「ホテル統一会計基準」とか訳されているようです。米国ホテル業界では、これを、通称「Uniform System」と呼んでいます。 ユニフォーム会計は、1926年にニューヨーク市ホテル協会を中心にしてホテル会計の専門家が集まって統一のホテル会計基準が作られました。この中心人物が、近代ホテルにおける科学的経営手法を確立し、チェーンホテルへの源流を作り上げたウォルスワース・スタットラーです。スタットラーはまた、有名なコーネル大学ホテル経営学の発展に寄与し、そのおかげで、同校が多くのホテリエ(ホテル経営者)を輩出していることでも知られています。スタットラーとその仲間が作り上げたユニフォーム会計は、米国内のホテル会計の基準であるのみならず、世界のチェーンホテルで、統一したホテル会計基準として採用されています。 


■ 何故、ユニフォーム会計が必要なのか?

海外では、ホテルを投資対象としてみた場合、投資家による資産評価の際、統一した会計基準が無いと、各ホテルを横並びにして比較検討できません。またホテルを売買する時も、統一基準を基本に資産価値評価を行うことが、必要になってきます。残念ながら日本では、ホテル業界における統一した会計基準はありません。一般会計では、商法や企業会計原則というのがありますが、これは決算をする為のルールであり、報告をする為のルールでもあります。日本では従来、決算、税務のための会計であればよかったのです。一般的には、経営の管理・分析指数としての数値把握は、管理会計の分野であり、部門別損益管理がその主要部分なのです。実は、ユニフォーム会計の狙いも、部門別損益管理にあります。 その基本的な内容は、次の通りです。
@財務諸表と付帯資料が表示されています。 財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、株主資本計算書、キャッシュ・フロー計算書、そして付帯資料として部門別損益計算書があります。実は、この付帯資料が重要なのです。米国では、この部門別損益計算書は、客室部門、料理部門、飲料部門、通信部門、車庫・駐車場部門、ゴルフコース部門、ゴルフショップ、ゲストランドリー、ヘルス・センター、スイミング・プール、テニス、テニスショップ、その他営業部門等々の部門に分けられています。リゾートを意識した部門や、日本には無いカジノ部門の計算書が独立していることも興味深い点です。特に、米国ではホテル内のカジノ収入の総売上に占める割合が高いので独立の部門会計を行っており、カジノ経営はホテル経営学の主要な科目にもなっています。
A経営分析の指標として、財務分析指標のルール化がなされています。比較分析・統計、損益分岐点分析、営業予算・予算統制、費用の配賦の考え方等が明記されており、部門別損益管理と同様に経営分析用のルール化が明記されています。 例えば、比較分析では、当期成果と期間予算比較、前年同期比較、叉分析統計数値として流動性比率、支払能力比率、活動比率、収益性比率、営業比率の数値分析の定義があります。客室統計や稼働率比率については、良く言われるREVPAR(販売可能客室一室当りの売上高指数)、ADR(その日の平均客室販売料金)等がその内容です。 特に客室分析については、客室稼働率を@個人・団体・長期滞在、A有料稼動・無料稼動、
B宿泊客・社用・全体と、3つの分類で分けて表示するための計算式、各種分析の計算式が明示されています。予算に関しては、営業予算作成の工程、部門別予算編成のための分析として事業環境、競争状況、料金分析(イールドマネージメント活用)、稼働率、売上の予測を行います。予算管理は、月々評価され売上状況を見ながら再予測(微調整)が行われるのが一般的です。 


■ お奨めは日本で開発されたユニフォーム会計ソフト!

では、今まで説明したユニフォーム会計を日本のホテルへ導入する時、そのまま導入できるかというと、なかなか難しい問題があります。既にユニフォーム会計のルールで出来たソフトが、最近出てきております。メーカー系のソフトパッケージでは例は少ないのですが、ホテル経理に特化した個別のソフトベンダーでは、結構、日本向けの優秀なユニフォーム会計パッケージが出ております。また、大手のホテルチェーンへの導入実績もあるようです。 始めてユニフォーム会計を導入されるホテルは、このような経理専門のソフトベンダーに相談された方が、システム導入前の注意すべきこと、日本の企業環境にあった運用を併せて指導してもらうことが可能であり、比較的安全に導入が出来ると思います。 その逆に、導入の際、失敗するケースで多いのは、米国のユニフォーム会計ソフトをそのまま導入しようと単純に考えるケースです。日本と米国のホテル経営・運営の違いから、導入後に当初狙った成果が出ないといったことになりがちです。 部門別損益管理では、部門毎のDepartmental Profit(部門損益)の把握が大きな狙いになります。もちろん旧来の日本型管理会計の部門別損益でも同じ狙いで作られていますが、科目の考え方がかなり異なります。ユニフォーム会計では純粋に営業部門に関するものを対象に売上・費用を算出しています。 宿泊部門を例に上げますと、売上面では、団体、個人のそれぞれをさらに詳細セグメント分類した売上を表示し、また純粋な売上を把握するため、総売上高から値引控除を差し引いた純粋な売上を算出します。一方、費用面では 人件費での給料・賃金や、客室でのケーブル・衛星放送費用、通信等の分類、また研修費、制服等が、細かく部門費用に計上されています。このように費用面において、特に細かい分類がなさ、最近の特徴としては、費用を各営業部門に配賦するに当ってのガイドラインが明記されています。 反面、従来、本部部門やパブリックスペース等の本部経費を各営業部門へ配賦を行っていたのが、本部を独立したコストセンター(経費部門)として費用把握を行い、営業部門への配賦を行わない傾向があります。これは、純粋なプロフィットセンター(収益部門)の部門損益の把握と本部自身にコスト意識を持たせることが狙いです。


■ ユニフォーム会計導入の留意点とは!

日本のホテルでのユニフォーム会計導入において、問題となるのは、
1.米国のホテル組織と日本の組織の違い
2.総支配人、部門長の売上・利益責任に見合う権限委譲の有無

上記2点が主な留意点になります。 営業損益責任を持つ総支配人、部門長には、売上と利益に対する責任が重くのしかかっていますが、残念ながら、それに見合う人事権、予算決済権を与えられていないことが多いのです。利益を上げるために人員の確保を望んでも、人事部門からの割り当て異動で人員が配置され、部門長の人事裁量権が限定される等の問題があります。このような中で、ユニフォーム会計の導入を真剣に考えるならば、会社の経営組織と総支配人、部門長の責任と権限の範囲を明確にする必要があります。 ただこれには、簡単にいかない日本的企業風土の要素があり、総支配人や部門長に権限委譲と、それにともなう責任体制が確立していない組織構造のまま、余り無理をしてユニフォーム会計を導入しても、得られる成果が少ないと思われます。当初は、米国ユニフォーム会計の考え方の良いところ参考にしながら、日本風にアレンジした部門別損益管理で収益改善をはかりながら、徐々に組織構造、人事制度に手をつけていくほうが上手くいくのではないでしょうか。





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