2003/01/06
『外資系ホテルにおける総支配人の役割に関する一考察』
仲谷秀一
A Study of General Managers' Role in Foreign Managed Hotels
Professor.Hidekazu Nakatani
Osaka Gakuin University
〈Abstract〉
Foreign managed hotels that landed in Japan in the mid-1990s into
the 2000, strike a clear contrast to the Japanese owned and managed
hotels that have been undergoing an operational downturn. In addition
to the operational expertise and brand image expended from the international
hotels, the main reason for success of foreign managed hotels can be
attributed to the expertise of the general managers who are sent from
the international hotel companies that manage these chain hotels.
Supporting the general managers' full utilization of
their expertise leading to operational success is the system's structure
that insures full operational authority of general managers. On the
contrary, general managers of Japanese managed hotels are but a part
of management team, and are given limited authority over operations.
Under these circumstances, general managers of Japanese managed hotels
are unable to play an important role in improving the bottom line.
In this study, I describe some daily job characteristics
of general managers of foreign managed hotels. In doing so, I will clarify
the qualities and roles that are required by general managers to run
a hotel in Japan, and suggest future directions for general managers.
Please note that the cases described in this study is not a record of
any particular individuals, but a fictitious narrative that I have created
based on the data obtained from interviews with several general managers
working in foreign managed hotels.
1.はじめに
近年、幅広い産業界において、経営トップの資質と実行力が、企業経営の存続を決定付ける要因として、大きくクローズアップされている。バブル崩壊以降、負の財産をかかえ、不況にあえぐ自動車業界において、カルロス・ゴーンは、COO(Chief
Operating Officer)として、わずか3年の間に日産を再生に導いた。同様に、わが国のホテル業界においても、低迷を続ける日系ホテル企業に反して、東京の新御三家(注1)やザ・リッツ・カールトン大阪に代表される外資系ホテルが順調に業績を伸ばしている。これら外資系ホテルの好調要因は、その運営母体である世界的ホテルチェーンのブランド力や運営ノウハウの優位性にあると思われる。しかし、これらの優位性を活かし好業績達成の原動力となっているのは、各外資系ホテルの総支配人であり、その位置付けは、大企業におけるCOOにも例えられる。刻々と変化する経営環境に対応して、自社のSBU(Strategic
Business Unit)ごとに迅速に意思決定するCEO(Chief Executive Officer)に対して、COOは事業執行の最高責任者として自社事業ポートフォリオにおける利益の最大化を目指す。総支配人の職務目標も同様に、ホテル内各事業部門(宿泊、食堂、宴会等の部門)ごとに収益性を高め、ホテル全体の利益を最大化することにある。外資系ホテルにおいてCEOに位置付けられる存在は、土地建物を所有するオーナーに擬せられる。 外資系ホテルにおけるオーナーとは、資産の保有およびその維持・管理のための資金調達を担当するものであり、直接、業務執行に携わることはない。このように、大企業におけるCEOとCOOの役割分担と同様、外資系ホテルにおいてもオーナーと総支配人との間に、明確な役割分担がある。その関係性については次章で詳しく述べることにする。
本研究では、外資系ホテルの総支配人の日常業務に見られる職務特性を事例として、今後、日本のホテル経営に求められる総支配人像とその役割を明らかにするものである。
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(注1)新御三家とはパークハイアット東京、ウエスティンホテル東京、フォーシーズンズホテル椿山荘
東京の3ホテルを指す。名門老舗ホテルである帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニの(旧)御三家に対抗する外資系新興勢力として(新)御三家と通称される。
2.総支配人の位置付けと職務
2‐1 日系ホテルにおける総支配人の現状
総支配人の役割を考察するにあたり、国内の日系ホテルおよび外資系ホテルの組織構造および、組織内における総支配人の位置付けと職務について明らかにしてみたい。まず、はじめに、日系ホテルについて述べることにする。日系ホテルは、概ね、所有・直営方式、リース方式、フランチャイズ契約方式、運営指導契約方式で経営・運営されることが多い(図表3参照)。ごくまれに、外資系ホテルに多く見られるマネジメント契約方式によるものもあるが、現時点では、オーナー(ホテル所有者)から運営を受託し利益を還元するには、日系オペレーター(ホテル運営企業)が未成熟な状態にあるため、事例はまだまだ多くはない。なぜなら、日系オペーターは、概してブランド力はあるが、運営力と運営を指揮すべき人材が欠如しているからである
日系ホテルの経営母体となるホテル企業は、株式会社組織である。経営陣は、社長をトップに(場合によって会長職をもうけることがある)、副社長、専務、常務等の役付取締役(以下役付役員と称す)、取締役と続く。日系ホテルの総支配人は、このような会社組織にあって、役付役員が兼務することが多く、この事が総支配人の職務特性や権限と責任に大きな影響を与える主要因となっている。これは、わが国のホテル企業が、一般企業とその経営スタイルに差異がないことを示唆している。まず、職務特性では、日系ホテルにおいて役付役員である総支配人は、運営(事業執行)の責任者として現場を指揮し利益を獲得することより、結果がもたらす業績の管理に傾斜しがちである。このことは、総支配人が、財務、人事など管理部門をバックグランドとしている場合、特に顕著となる。また、総支配人の位置付けは、収益部門(宿泊、食堂、宴会の各部門、)販売促進部門の担当役員であるが、人事、財務、施設など管理部門を担当する上級役付役員が総支配人より上位に位置し、これを管理・監督することも稀ではなく、その権限は限られたものとなる(図表1、図表2参照)。 さらに、ホテル企業によって、販売促進部門を他の役付役員が担当する場合や、収益部門の一部であるべき調理部門の責任者が、総料理長兼上級役付役員として総支配人より上位に位置する場合、一元化された運営執行が一層困難となる。このような、管理主導的な組織構造では、日常的に行うべき運営上の意思決定も、社長、上級役員出席の常務会や役員会での承認、稟議決済が必要となり、迅速な業務執行が阻害される。広く産業界で言われる、日系企業の意思決定の遅さは、ホテル企業においても同様に、外資系ホテルに対する競争力の低下を招いているといえよう。
■ 図表1、2 日系ホテルの組織構造(1)(2)
■ 図表3 ホテルの経営方式
2‐2 マネジメント契約方式におけるオーナーと総支配人の関係性
近年、日本国内、特に首都圏、大都市において、外資系ホテル運営企業とのマネジメント契約によるホテル経営方式が、日本のホテル界にも導入されるようになった(図表5参照)。 この背景には、土地・建物を保有し、有効活用を目的とするオーナーとしての日本企業(以下、オーナーと記す)と、世界戦略の重要拠点である日本にチェーン展開を図る外資系ホテル運営企業(以下オペレーターと記す)の意図が一致したからと考えられる。マネジメント契約方式の利点は、オーナーに運営ノウハウがなくとも、運営力のあるオペレーターに運営委託することにより、資産の運用益を得ることが出来、オペレーターは、不動産投資のために要する莫大な資本を自ら調達することなくマネジメント・フィ(注2)と新たにチェーンを拡大できることである。このようなWIN-WINの構図は、米国で1950年代に始まり、その後、ホテルへの不動産投資の活性化と世界的ホテルチェーンを生む原動力となった。(注3)
オペレーターの経営資源は、強力なブランド力、世界をネットワークする顧客組織と販売網、最先端のマネジメント・ノウハウと豊富な経験を結集した運営システムであるが、中でも一番重要であるのは、ホテル運営のプロフェッショナルとしての総支配人の存在である。通常、マネジメント契約により運営される国内の外資系ホテルは、オーナーである日系企業が出資、設立する運営子会社が経営母体となる。これらの運営子会社には、オーナーから派遣された社長がオーナーの代理人として常駐し、ホテルの業績管理と決算、固定資産の再投資やメンテナンス等の資産管理、オペレーターから派遣された総支配人の業務執行の監視にあたる。一方、総支配人は、マネジメント契約で保障された、人事権、予算執行権、施策策定・実行の権限を掌握して、運営業務を執行する。(図表4参照)
運営子会社における社長および総支配人の職務上の役割分担は、第1章で述べたように、一般企業における、CEOとCOOの関係に擬せられる。CEOとCOOの役割分離への動きは、経営環境の複雑化と流動化に対応するために、企業の将来を左右する経営の意思決定をCEOに一元化し、日常的な事業活動をCOOに委ねようという大規模企業におけるコーポレートガバナンス上の必然性から発生している。 一方、単体のホテルを経営・運営する運営子会社は(注5)、通常、従業員数200人から400人のいわゆる中小企業規模の経営組織体であり、社長と総支配人の役割を分離した場合、意思決定が煩雑となり、かえって経営が非効率になる危険性を有している。
米国において、マネジメント契約方式で単体ホテルを運営する場合、その運営母体に常駐の経営管理者をおかず、親会社(オーナー)の幹部が兼務して職務に当たることが多い。 これは、マネジメント契約方式で、ホテルの全部署に精通し極めて専門性の高い運営力をもつ総支配人に運営の全てを委ねた場合、日常的にオーナーが緊急に意思決定すべき経営に関する事項は少なく、経営管理者を専任で常駐させる必然性が薄いからである。
一方、日本企業のオーナーは、その運営子会社に専任の社長を配置する場合が殆どである。 このことは、日本における子会社の設立目的が、業容拡大のみならず、終身雇用制度によってもたらされる幹部社員のための受け皿確保と言う内部事情に依るところが大きいからと考えられる。
■ 図表4 外資系ホテルの組織構造
■ 図表5 主要外資系ホテルのオーナーとオペレーター
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(注2)マネジメント・フィとは、マネジメント契約において、オーナーがオペレーターに対して運営委託の代償として支払う運営委託料である。
(注3)Tom Powers & Clayton W. Barrows. "Introduction to Hospitality Industry
Forth Edition", 1999, pp313-317
(注4)世界的ホテルチェーンとは、ヒルトン、マリオット、シェラトン、ホリデイ・インなどに代表されるホテル運営企業のよってチェーン化されたホテル集団をさす。
(注5)一般的に、マネジメント契約方式の場合、単体のホテルは、オーナーにより設立された運営子会社が一社一ホテルで経営にあたることが多い。
3.外資系ホテルにおける総支配人の役割に関する事例検証
米国における総支配人の役割について、Harvey Chipkinは、「1960年の総支配人のJob
Description(注6)は、スーツの襟穴に新鮮な花を飾ることであった。 一方、1998年のJob Descriptionは、各ホテル企業に数十億ドルもの投資するREIT(Real
Estate Investment)の監視のもと、年商数億ドル単位の会社を経営することに他ならない。これには、次の事柄の実践がともなわれる。ホテル内の多様な職種の人たちが戦力としてモチベーションを高く満足して働くこと、地域社会と広範囲にわたって連携すること、ホテル業界団体で活発に活動すること、客室が快適であるかどうか自ら十分確認するとともに従業員が重要な問題の解決に自主性をもってあたれるよう活力をあたえること、絶えず先進的な教育レベルを目指すこと」(注7)と述べている。
1960年代には、米国の総支配人たちは、襟にバラ一輪を飾り、満面の笑みをうかべ、ホテルの主(ホスト)として、お客を自らもてなすべく悠然とロビーにたたずむだけでよかった。しかし、1990年代の総支配人には、顧客、従業員、地域社会に直接かかわりながら、投資家に対して業績の責任を負う経営者としての役割が求められている。
また、HOTELSの総編集長Jeff Weinsteinは、「21世紀の総支配人は、最新のテクノロジーを理解し、Yield(注8)を高めることに長期展望を持って取り組むことができるマーケティングのエキスパートであるべきだろう」(注9)と述べている。
以上に表現される21世紀に求められる総支配人像は、現場に精通した経営者にして、広い視野を持ち進取の気質に富んだマーケッターという事ができよう。この章では、日本市場で現実に活躍する外資系ホテルの総支配人の、職務遂行の事例を検証することにより、わが国において、「21世紀型総支配人」が果たすべき役割と職務について明らかにしていきたい。ここで取り上げた事例は、特定の個人の実録ではなく、論者自身が、外資系Hホテル(大阪市)の歴代総支配人オランダ人M氏、英国人B氏、日本人Y氏、外資系Wホテル(大阪市)の日本人N氏、以上外国人2人日本人2人計4人の総支配人に、過去5年間にわたり直接インタビューしたデータを基にして、彼らの実際上の行動を再現した物語として作成したものである。
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(注6)Job Descriptionとは、通常、職務記述書と訳し、外資系ホテルにおいて、年次ごとに上司と部下の間で取り交わされる職務権限、および責任を明示した一種の覚書である。
(注7)Harvey Chipkin, Cover Story, "Lodging Magazine" , July 1998、p4
(注8)Yieldとは「歩留まり」のことであり、ホテルでは、客室や宴会場の販売効率および販売収益を指す。
(注9)Jeff Weinstein, Editor's Story, "HOTELS", September 1997,p15
■ 事例研究:『200X年X月X日(月曜日)
外資系ホテル総支配人A氏の一日』
各記述末のABCD表示は、次章で述べる総支配人が果たすべき4つの役割の中から、記述に該当する項目を記号表示したものである。
07:30 A氏は、ホテル内のレジデンスから直接、朝食レストランに向かった。A氏、43歳、世界的ホテルチェーンの日本人総支配人。総支配人にリブイン(注10)を義務づけているチェーンの方針に従って、A氏は、家族とともにホテルに住んでいる。文字通り職住近接というわけだ。(C)
08:00 月曜日朝は、ビジネス客も少なくレストランは閑散としている。 ホールスタッフや、厨房に軽く声をかけたA氏は、長い渡り廊下を歩きながら、ロビーに向かった。 ロビーには、チェックアウト待ちの航空会社のクルーがたむろしている。A氏は、爽やかな笑顔で、すっかり顔なじみなった機長と握手を交わす "Have
a nice flight Captain !!"。(A)(B) 08:30 ベルやドアマン、そしてフロント・クラークをねぎらい、自らのオフィスに入ったA氏は、ラップトップPCを起動した。イントラネット上の営業情報に素早く、目を通す。部門毎の売上日報、予約情報、セールスレポート・・・、到着者一覧と宴会一覧はプリントアウトする。このホテルでは数年前から、営業情報をLANで共有している。勿論、内部伝達や連絡は、e-mailで行ないペーパレスが徹底されている。英字紙、5大紙を流し読みしているところに、A氏用のブラック・コーヒーを片手に秘書のB嬢が入ってくる。本日のスケジュールの確認。 月曜日は、とりわけ会議の多い日ではあるが、今日の午後には、月例デパートメント・ヘッド・ミーティング(管理職会議)もあり、かなり忙しい一日になりそうだ。(B)(C)
09:00 ガラス張りの総支配人室の隣にしつらえられた、これまたガラス張りのボード・ルーム(会議室)に部長達が入ってくる。宿泊、料飲、営業に会計、人事の各部長、加えてエグゼクティブ・シェフ(料理長)とチーフ・エンジニア(施設部長)の面々だ。 通称ExCom(注11)と呼ばれるこれらのホテル幹部が毎朝顔をそろえ、当日の接遇から営業上の案件まで、デイリーで討議、総支配人が即断即決していく。営業部長C氏から、ここ数週間、宴会、宿泊のセールス実績が伸び悩んでいることへの対応策が、提案がされる。 宿泊、料飲部長もこれに同調、A氏は、早速2日後の販売促進会議までにプランをまとめるようC氏に指示した。C氏は、地元老舗ホテルの営業課長から中途採用で入社3年目の37歳。 A氏は、Excomの中で、めきめき頭角を表したC氏を、近々副総支配人に推薦しようと思っている。後継者の育成も、総支配人の大切な役割なのだ。(B)(C)
12:00 いつもより30分長くかかった朝会を終え、予定の面会2件をこなすともう昼前、今日は、オーナー派遣のD社長とランチ・ミーティングの予定だ。 このホテルの親会社である大手電鉄とA氏の派遣元である世界的チェーンとはマネジメント契約(管理運営契約)を結んでおり、総支配人のA氏は、事業経営(運営)に関し代理執行の役割を担っている。 オーナーズ・ミーティング(注12)は、隔週開催で定例は次週なのだが、このところの経営環境の動きについてD社長と意見交換しておくほうがよいと判断して、インフォーマルなランチとなった。D氏は、A氏より18歳上だが、A氏に全幅の信頼を置き、親会社との掛け橋になってくれる頼もしい存在だ。(C)
14:00 全部署の部課長を集めたデパートメント・ヘッド・ミーティング。 部長経由の伝達のみならず直接課長に方針をつたえ、意見を吸い上げるのが、このチェーンのやリ方だが、とり分けA氏はこれを重視している。もう一つA氏が重要視しているのは3ヶ月に一度の全体ミーティング。社員のみならず、パート、委託先社員のホテル館内従業員全員を3班にわけ、3日間連続で総支配人自らが直接メッセージを送る。結構、エネルギーを要するが、従業員一人一人の手応えが直に感じ取れるので、思わず力がはいると言うものだ。(B)(C)
16:00 会議を終えてほっと一息つく暇もなく市の経済局長からの電話。A氏が仕掛けていたこの地域への集客プロジェクトに、市が全面的に支援してくれるとのこと。 地域への貢献も総支配人にとって大切な仕事なのだ。(D)
18:00 お忍びで来日中の、東南アジア某王国のプリンセスが到着。 かつてA氏が同チェーンの在外ホテルでレジデント・マネジャー(注13)として勤務していた際、プリンセスに面識のあるA氏は、自ら玄関で出迎えプレジデンシャル・スィート(注14)に、ご案内した。 A氏のホスピタリティあふれるもてなしを記憶に留めていたプリンセスに声をかけられたA氏、まさにホテルマン冥利につきる一瞬であった。(A)(D)
22:00 プリンセス主催の小規模だがゴージャスな晩餐会が無事お開きとなり、プリンセスご自身は、日本留学時代のご学友とトップラウンジでアフターを楽しんでおられるとの情報が入った。 オフィスで一人、来週に向けてオーナーズ・レポート(注15)に目を通しながら、今日も無事すみそうだなと、独りつぶやいたA氏であった。(C)
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(注10)リブイン(live in)とは 住み込みのことで、ヒルトン、ハイアットなど日本進出している世界的なホテルチェーンの一部では、総支配人にホテル内居住を義務つけている。
(注11)Excom(Executive Committee)は、ホテル運営上の最高意思決定機関メンバー。休日を除く毎朝開催されるExcomミーティングでは、当日のルーティン・ワークの確認や営業施策の意思決定が即断即決で行われる。
(注12)オーナーズ・ミーティングとは、総支配人がオーナーに対して月1回から2回程度、定例で業務状況や業績の報告・説明をおこなうための会議。
(注13)レジデント・マネジャー(Resident Manager)は、総支配人がリブインしない場合、住み込みで総支配人業務を代行し、日本語では、副総支配人と訳される。実際には、総支配人を補佐する事実上ナンバー2の副総支配人を指し、必ずしもリブインするとは限らない。 同様に副総支配人と訳されるEAM(Executive
Assistant Manager)は、宿泊部長や料飲部長などのExcomが、シフトで総支配人代行を務める際に設けられる職務タイトルである。
(注14)プレジデンシャル・スィート(Presidential Suite)とは、居間、寝室などの続き部屋(スィート)の内、ホテルで最上級の貴賓室の一般名称である。
(注15)オーナーズ・レポートとは、オーナーズ・ミーティングで、総支配人がオーナーに報告する際、用意される報告書である。
4.外資系ホテルの総支配人に求められる4つの役割
事例研究に登場した総支配人A氏と、このホテルの物語は、フィクションである。しかし、この物語は、日本のどこかに実在する外資系ホテルの、或る日の一こまを、忠実に再現している。
それでは、この物語の中に盛り込まれた総支配人の役割をまとめてみることにしよう。 総支配人の役割は、次の4つに要約できる。
(A)顧客を魅了する『エンターティナー(接客者)』であること
(B)部下には、よき『リーダー、教育者(トレーナー)』であること
(C)オーナーが最も信頼する『経営の代行者』であること
(D)地域社会に貢献する『外交官』であること
以上4つの役割は、物語の中で、該当する記述の末尾に注記した。 ひとつの記述に対して複数のポイントが注記されているのは、総支配人の行動が単独の役割だけでなく、同時に重複した役割を果たしているからである。
例えば、総支配人が主催する会議で、総支配人から発せられるメッセージは、経営の意思決定を全社に伝達するのに有効な手段であると同時に、従業員のモチベーションを高め、ホテル運営への積極的な関与を促すなど、教育的効果を生み出す可能性が高い。 ここでは、総支配人は、経営者であると同時に教育者としての職務を遂行することになるのである。 それでは、それぞれの職務について詳述してみよう。
4‐1 エンターティナーとしての役割
ホテルにおける直接的な顧客サービスは、もとより重要な部分であり、運営のトップにたつ総支配人も例外ではない。この事例研究においても、総支配人A氏は、早朝、チェックアウト間際のなじみの航空会社機長とフレンドリーな挨拶をかわし、夕刻には、某国の王女を自ら出迎えている。サービス・スタッフと同様、エンターティナー(接客者)としてサービスの第一線に立つことも、総支配人の役割の一つなのである。
3章で述べたように、1960年代の米国内ホテルの総支配人たちは、ドレスアップしてロビーに立ち、重要顧客に自ら挨拶することにより彼らのプライドを満足させ、顧客ロイヤルティを高めようとつとめていた。 現在においても、総支配人が、自らロビーに立ち宿泊客に挨拶することには代わりはない。しかし、Harvey
Chipkinも述べているように(注16)、総支配人がロビーに立つ目的は、顧客と単に挨拶をかわしもてなすばかりではなく、ロビーにおいて、ゲスト(注17)が本当に満足しているのか、従業員達がゲストを満足させるサービスが出来ているのか、新しいゲストのニーズがあるか、などを自ら検証することにある。 即ち、総支配人のもてなし(エンターティン)は、マーケティング・リサーチの実践をともなうものであると言えよう。
また、総支配人のエンターティナーとしての行動は、直接的のみならず、間接的にも実践される。例えば、Excomミーティングにおいて、宿泊部長から、重要顧客の当日宿泊の報告を受けた総支配人は、ルーティンで決められた果物や花の差し入れの手配を確認するだけでなく、自らグリーティング・カードに、歓迎の意を伝えるメッセ−ジとサインを書き入れることを忘れないだろう。心をこめた手書きのメッセージが、旅先にある宿泊客の心を和ませる有効な方法だと知っているからである。 同じように、料飲部長からホテルにとって重要な地元顧客の誕生日を祝う家族会食の予約が入ったことを知った総支配人は、エグゼクティブ・シェフ(総料理長)に、特製のバースディ・ケーキを作るように命じるだろう。ホテルからの思いがけないプレゼントが家族のイベントをより盛り上げるであろうことを総支配人は知っているからである。このように、総支配人のもてなしやサービスは、対面の接客で直接的に行われるばかりではなく、間接的にも準備し実行されるのである
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(注16)Harvey Chipkin,前掲書, 1998 , pp.6-7
(注17)ここで言うゲストとは、顧客すなわち、なじみ客、お得意客のみならず、宿泊、食事、宴会などに来店する一見客を含む来館者全体を指している。
4‐2 リーダー、教育者(トレーナー)としての役割
外資系ホテルの組織構造は、総支配人を頂点とした完全な縦割り組織であり、部門長に対し所管部門内の意思決定に関する大幅な権限が委譲されている。部門長への権限委譲は、人事権、予算執行権、施策立案・実行に関する権限と広範囲にわたり、現場での迅速な経営判断が好業績を生む主要因となっている。 このことは、石原が、「好業績の外資系ホテルでは、組織構造において分権化の程度が高く、問題解決のための意思決定の権限が組織の上層部から委譲されている」(注18)と述べている通りである。
また、石原は、「マネジャーの職務特性において、組織構造の分権化に適合し、自律性、タスク完結性、タスク依存性が高く、仕事の遂行において裁量を有し、また最初から最後まで責任をもってやりとげることができる、かつ自分の直接の指揮下にない社内外の関係者に協力を取り付け、仕事を成し遂げている」(注19)と述べている。ここで前提となるのは、権限委譲されたマネジャー達の職務遂行上における、ホテル全体のビジョンやトータルタスクとの整合性であり、社内外の関係者とのコンセンサス構築である。
これらのマネジメント・スキルや見識は、組織内のシステムとして権限の委譲がなされるだけで醸成されるものではなく、マネジメントの実践を通して培われると考えられる。事例研究に見るように、Excomミーティングの席上、総支配人が示す部門間にまたがる重要案件への意思決定や、ホテル全体にかかわる運営上の判断を日常的に体験することにより、Excomである部門長達は、次代の総支配人候補として、マネジメント上の実践スキルを磨く機会を与えられる。毎朝開催されるExcomミーティングは、最も有効な総支配人教育の場であり、総支配人を教官とするマネジメント・セミナーにも擬せられよう。総支配人に、求められる重要な役割の一つは、後継者を育てることであり、総支配人自身が、次代の総支配人を育成するためのトレーナーであると言える。 世界的に拡大・成長を続けるホテルチェーンにとって、ブランド戦略に基づいてそれぞれのホテルを運営し、確実な利益、安定した顧客評価、従業員のモチベーション高揚、オーナーの信頼をもたらしてくれる総支配人の育成は、最重要課題であるからだ。世界的ホテルチェーンにおける総支配人の任期は、通常3年である。3年の任期中、総支配人は、任務地のホテルにおける日常業務の中で総支配人候補(注20)を発掘し、教育・訓練しなくてはならない。幹部教育とともに、総支配人は、自社がかかげるビジョンと従業員が果たすべき具体的な行動目標、更には現況に対応した自ホテルの方向性を、自らのメッセージとして直接的、継続的に従業員に伝達するリーダーとしての役割を担っている。総支配人のメッセージは、次の二つの方法で、従業員に伝達される。
第1のメッセージの伝達は、会議を通じて行われる。Excomミーティング、デパートメント・ヘッド・ミーティング、全体ミーティングの組織階層毎の会議において総支配人が直接、全従業員(注21)に伝達し、全従業員が、同じ内容のメッセージを共有することができる。 総支配人のメッセ−ジに込められた情報の共有は、全社的な共感を喚起し、協働意識を高め心的活力(エンパワーメント)を増幅させる効果があると考えられる。
第2のメッセージの伝達は、日常業務の場で行われる。 外資系ホテルの総支配人は、個々の従業員の名前を記憶し、早朝、深夜、多忙日など、日系ホテルにおいては多くの経営者が敬遠する時間帯においても、直接彼らに話し掛け、勇気づけ、その場に応じたメッセージを伝える。このようにして従業員のモチベーションは高まり、協働意識はさらに高揚するであろう。
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(注18)石原敏孝「シテイホテルのマネジャーの職務特性と管理行動について」神戸大学大学院経営学研究科修士論文2001
p14
(注19)石原敏孝 前掲論文2001 p14
(注20)チェーン本部派遣の幹部候補に加えて、総支配人が現地採用の幹部の中から総支配人候補を選抜・推薦する場合もある。 このように外資系ホテルは完全な能力主義をとっている。
(注21)ここで言う全従業員とは、管理職、正社員、契約社員など一般社員のみならず、パート・アルバイトなどの臨時雇員や館内に常駐する協力会社社員をも含んでいる。
4‐3 経営の代行者としての役割
2章で述べたように、マネジメント契約方式で派遣された外資系ホテルの総支配人は、ホテル運営に関する全権(人事権、予算執行権、施策実行権)を依嘱され、社長に代わって業務を執行する。 同様に、契約上、総支配人に課せられる責任は、契約に明記された収益目標を達成することである。広範囲で強固な権限に対して、その収益上の責任は重く、年次を重ねて利益目標未達の場合、その結果に対して解雇、更迭など厳しい処置がとられる場合もある。
ここで総支配人に求められるのは、運営のプロフェッショナルとして投資家やオーナーに代わって事業を執行し、確実に資産運用益をもたらす経営の代行者としての役割である。
総支配人を中心に策定された年次計画(Annual Action Plan)および年次予算(Annual Budget)がオーナーに承認されれば、総支配人は、一年間は自らの権限において業務を執行できる。契約によれば、業務執行に際し、総支配人がオーナーから日常的に運営上の指示・命令を受ける義務はなく、定期的にオーナーに対して営業業績および年次計画の達成状況を報告するだけでよいのである。
契約以上に、オーナーが総支配人に期待しているのは、E. Nebel、 A. Gheiが指摘しているように、ホテルの人的、財務的資源の活用、社内外のネットワークを構築して得た経営環境の分析情報など、資本の増強と組織の活性化にかかわる長期的視野に立った見解である。(注22) 短期的な利潤追求だけでなく、これら長期展望に立脚した経営上の助言により、オーナー対総支配人の信頼関係は増幅される。 経営の代行者である総支配人にとって、自らの職務達成に、オーナーの信頼を得ることは不可欠であるといえる。
事例研究にも、これらのことは示されている。総支配人A氏は、親会社(オーナー)から派遣された社長D氏に対し、定期的に開催するオーナーミーティングでの報告だけでなく、日常的に、経営環境に影響を及ぼすであろう情報があれば、これを社長と共有することにより、経営上のパートナーとして信頼関係を築こうと努力しているし、D氏もこれに応じている。
銀行、ゼネコン、電鉄、航空会社をはじめとする異業種の親会社からホテル運営子会社に派遣された社長の多くは、契約上では禁止されているにもかかわらず、往々にしてホテルの日常業務に関与しがちであり、それは、しばしば正常なホテル運営に障害となっている。 このことは、社長達の悪意によるものではなく、彼らの長年にわたる企業内の職務体験からもたらされたものであり、権限と責任の所在をあいまいにする日本企業の体質がここにも現れているからであると考えられる。このような事態を避けるためにも、日ごろから、社長と総支配人の間に、信頼にもとづく友好的な人間関係の構築がより肝要となる。
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(注22)Denny G. Rutherford, "HOTEL MANAGEMENT
AND OPERATION", John Wiley & Sons,1995, pp65-66
4‐4 外交官としての役割
一般企業と同様、ホテルの存在意義は、顧客の満足、従業員の満足、投資家(≒オーナー)の満足をはかることにある。 同時に、一般企業がそうであるのと同様に、もしくはそれ以上に、地域社会と密接に関わりあい、これに貢献することを使命としている。
このことは、R. Eellsが、「企業の社会的目的におけるステークホルダー(利害関係者)とは、現代大企業に『直接的』に関係するものとして株主、顧客(消費者)、従業員および仕入れ先があげられ、『間接的』に関係するものとしては競争者、地域社会、一般大衆、政府があげられる」と定義つけた上で、「現代企業は経済的目的だけでなく、全ステークホルダー(社会全体)の利害に対し、公正に配慮・貢献しなければならない」(注23)と指摘している通りである。
ホテルにとって、直接的なステークホルダーとは、前述の3つの役割で指摘した顧客、取引業者を含む従業員、オーナーであり、間接的なステークホルダーとは、地域社会とその住人、同業他社、自治体があげられる。 日本系ホテルにおいては、直接的なステークホルダーが優先されがちであるが、外資系ホテルは、地域社会をはじめとする間接的ステークホルダーにも目が向けられている。
総支配人の4つ目の役割は、ホテルを代表して、これら間接的なステークホルダーと、公正かつ友好的な関係を保ち、ホテルの社会的存在意義を果たすことである。
事例研究において、総支配人A氏は、地元自治体に働きかけ、自ホテルのみならず地域全体の集客を考えている。 このように、外資系ホテルにおいては、地域の観光行政に積極的に参画することは珍しいことではなく、この他にも、ホスピタリティ&ツーリズム教育への支援、ボランティア活動をはじめ、都市開発や街づくりの核施設としての機能も積極的に果たしている。
このような地域への社会的貢献を推進しているのが総支配人であり、対外的にホテルを代表する外交官の役割を担っている。 地域を代表すると言う意味では、地域を訪れホテルに宿泊、あるいは利用する内外賓客をもてなすことも重要な仕事となる。
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(注23)岡嶋隆三・唐崎斉編『新しい社会へのマーケティング――マーケティングの基本と展開』(第3章)嵯峨野書院1996 pp.42-43
5.まとめにかえて、日系ホテルの課題と展望
本論文では、外資系ホテルにおける総支配人の職務、権限、責任の実態検証を通じて、その役割を明らかにしてきた。ここで示した『エンターティナー』、『外交官』は、どちらかと言うと対外的な役割であり、『リーダー、教育者』、『経営の代行者』は、対内部に向けられた役割といえる。そして、この総支配人の『4つの役割』は、日本ホテル業界における運営トップの、今後のあり方を示唆しているものといえる。
日系ホテル企業の総支配人が、運営のトップとして、外資系ホテルの総支配人と同様に4つの役割を果たすためには、次に述べる二つの課題を解決する必要性があると考えられる。第1は、経営組織構造の課題であり、第2は、人的資源の課題である。
まず、第1の経営組織構造の課題は、いかに総支配人の運営執行権を確立するかにある。第2章で述べたように、日系ホテルの総支配人は、株式会社組織における役付役員の担当役職として位置付けられ、社長をはじめとする上級役員の下位の経営階層に属すことが多い。このような状況では、総支配人が運営上の全権を掌握して職務を遂行することは困難であり、迅速な意思決定の障害となっている。この組織構造上の課題を解決するには、社長自らが総支配人を兼務する、もしくは総支配人に運営に関する執行権を依嘱すことを明記した職務権限規定を整備することが必要となる。前者では、ホテル資産を保有する親会社または所有子会社と、当該ホテルを運営する運営子会社に分離分割する、後者では、資本・資産の管理運用を担当する社長と、運営すなわち事業執行を担当する総支配人の職務分担を明確にすることが、前提となる。これらの前提条件は、ホテルの事業収益性の向上を目指すべき運営を、独立した形で迅速に遂行するためである。しかしながら、従来型の終身雇用、年功序列制人事システムを継承したまま、社長や役付役員が総支配人で兼務する場合、新たな問題が生じる。年功序列制で成り立っている日系企業で役付役員に上りつめるには長い年月を要し、平均的に50歳をはるかに越え、60歳を越えることも珍しいことではない。一方、事例研究に示す通り、従業員とともに常に現場の第一線に立つ総支配人は、心身ともに若くなくては業務遂行が困難となる。外部からは一見、華やかに見える世界も、経営にまつわる精神的な重圧と、肉体を酷使する労働をともなっているのである。 年齢の問題は、個人差があるとは言えるが、事例にあるように、過酷な仕事を、一年を通じて続けていくには50歳が限度、少なくとも55歳までの仕事ではないであろうか。従って、今後は役員であることにとらわれず、運営に卓越した能力を有するならば、年功序列を排除して年齢に捉われず能力成果主義により抜擢するなど、新たな職務機能としての総支配人の要件を満たして行くことが求められる。
第2の人的資源の課題は、日系ホテル企業にとって、より深刻であるかもしれない。従来の日系ホテルの経営においては、運営のトップといえども事務管理志向が強く、総支配人自身の感性や、人格については重要視されなかったからである。 異業種参入組みを中心に不動産業的側面が強調されるホテル業ではあるが、本来、感性豊かに生活価値を創造するファッション産業に近いものと言えよう。
なぜなら、宿泊部門に比して、一般宴会、婚礼宴会、食堂部門の売上構成比率の高い日本のホテルは、企業宴会が低調な近年特に、地元個人客に依存することが多く、個人のライフスタイルと密接に関連しているからである。個人生活の中で、ホテルは主に、ファッションとしての食・住の豊かさを提供している。総支配人は、ホテルのハードとソフト、即ち施設とサービスを、常にゲストの期待値以上の状態に保っておくことを求められる。ハード面において、総支配人は、ホテルの玄関廻り、ロビー、客室、レストラン、宴会場やその他施設が、伝統的で豪華である場合や、機能的で清潔であるばかりでなく、訪れるゲストが感動や安らぎを感じることが出来る空間として演出しデザインしておく必要がある。 外装、内装、照明、装花・観葉植物、絵画・美術品、家具・調度品は、ゲストが求めるライフシーンを演出するための舞台装置であり、総支配人の感性によって、生き生きとした快適な空間を彩ることができる。
ハードの演出のみならず、ゲストが心地よく感じるサービス手順、心遣い、表情、言葉使い、立ち振る舞い、コスチューム、身だしなみなどソフトについても、総支配人は予めデザインしておく必要がある。技術、知識のみに頼るのではなく、ゲストを和ませ、楽しませるサービスを実現するのは総支配人の人格からもたされるホスピタリティそのものである。
このように、ホテルは、総支配人の感性、人格が大きく反映され、ホテルの性格は、総支配人の性格そのものとなると言っても過言ではない。外資系ホテルの総支配人の感性は、マネジメント力と同様に概して高い。近年、海外において、外資系ホテルの総支配人やホテル経営学を修めた学生達が、広告、PR、マーケティング、建築デザインなど他産業に転職、就職が可能となるのは、このためである。日系ホテル企業においても、財務、人事、総務に代表される事務管理者ではなく、ホスピタリティの視点で深く広く個人消費者のニーズをつかむマーケティング志向の人材を採用し、育成、することが求められるであろう。
以上、外資系ホテルの事例をもとに、今後、日系ホテルの総支配人に求められる4つの役割と、これらの役割を果たすための2つの課題について述べた。第1の経営組織構造の課題については、ホテル産業における所有、経営、運営の分離と、それぞれが専門特化することによる経営全体の効率化、および年功主義から能力成果主義への人事システムの変革について、更なる研究が必要となる。第2の人的資源の課題については、日本の大学教育における実践的なホテル経営学の充実と、インターンシップを始めとする大学とホテル業界との連携による人材の発掘と育成が、課題解決の鍵となりうるのではなかろうか。
また、今回、論じるに至らなかった総支配人の4つの役割に関する定量的分析についても、今後の研究に委ねるものとする。
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