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仲谷塾長のエッセイ・論文集P

 

『仲谷秀一の"勝手"コンサルティング・レポート』

 本レポートは、調査対象のホテル、施設、地域からの依頼により作成したものではない。筆者が、調査対象のますますの発展、あるいは再生を願い、心をこめて贈るエールであり、まさに"勝手"コンサルティング・レポートなのだ。



「Profile1: ホテル日航ベイサイド大阪」

■USJ周辺、第3のホテルのポジショニングと戦略
 2002年4月27日、USJ周辺3番目のホテル・ホテル日航ベイサイド大阪(袋布要一郎社長・手塚信明総支配人)が開業した。JRユニバーサルシティ駅を降りると、出口左にホテルが姿を現す。32階建て120メートルを越える高層ホテルは、見上げるのが困難なほどだ。1階には、スターバックス、ローソン、ボディ・ショップの大型店が配置されている。これでホテルのポジショニングが、はっきりわかる、明らかに中級ホテル、3スター狙いだ。しかし、ホテル全体を通して、3スターでありながら、4スター、ないしいは5スターを感じさせるテイストがある。既存の老舗ホテルにないコンテンポラリーなデザインセンスが随所にうかがえる。オーナーである綜合商事代表取締役村井敬氏(元日建設計設計部長)の力作だ。  全室641室の客室特化型ホテルでありながら、先行するUSJ周辺2ホテルにはない、都市型リゾート・ホテルの多機能性とゆとりがある。 USJだけによりかかるのではなく、都心から15分、一番近いアーバン・リゾート立地を経営資源として活かそうとする戦略を垣間見たような気がする。

■計算尽くされたインテリアセンスと効率的運営
 3階から、フロント・ロビー階の4階の吹き抜けには、オープンチャペルが配置され、年間100件の婚礼を目指す。オペレーションは、すべてアウト・ソーシング、人的コスト上のリスクを押さえこんだ。3スターホテルの合理性が発揮されている。宴会場は、355平方メートルと165平方メートルの2室で、一般宴会も受注ベースで無理をしていない。  32階の「トップ・オブ・ハリウッド」は、このホテルの性格を現している。 USJ外からの地元食事客狙いのスカイ・レストランは、パーク・ハイアット東京のニューヨーク・グリルの、おしゃれさとカジュアルさをもつ。 幾分明るめに設計された、このレストランが成功すれば、大阪のホテル・レストランに一石を投じることになるだろう。  宿泊客にとって魅力は、31階の展望温泉コクーン、大阪湾を一望できる。 泉質はホテル阪神(福島区)と同じ低アルカリ性の単純泉、疲れがとれ心身ともにリフレシュされる。 利用には、宿泊客であっても1000円の別途料金がかかる。 これは論議を呼びそうだが、このホテルのターゲットが、団体や一般家族客のみならず、カップル、女性客であるとすれば、利用者に楽しみの選択肢を広げるものとして納得できる。

■多機能性に隠された宿泊特化型ホテルの側面
 個性的な多機能施設をもちながら、経営の軸足は、明らかに宿泊施設におかれている。 客室のインテリアは、外資系ホテルチェーンが得意の米国ハッシュ&ベトナー社を思わせるアート感覚のデザイン。 この辺にも、事業ポートフォリオにおける宿泊部門に対する期待感、ターゲット・セグメントを高感性なアーバン・リゾート客に絞り込み、ハイセンス&リーゾナブルプ・ライスのコンセプトを明快に打ち出そうとする所有・運営双方の意気込みが感じられる。   一つ残念なことは、389室と全客室の60%を占めるスタンダード・ツイン、ダブル・ルームが125uと、最近のマーケット・ニーズから言うといかにも狭いことだ。 それも3スターホテルとしては、無理もないことであろうが、これが将来、大きな禍根となる恐れがある。 全体的な客室の印象は、一見ハイセンスなインテリアと、建築コストの効率化がギリギリの線で折り合いをつけたというのが妥当だろう。 4スター感覚の3スターホテルである所以だ。  経営の合理性は、客室の販売料金にも見られる。 年間をAからEの5シーズンにわけ、料金を段階的に設定する変動価格制だ。 スタンダード・ツインとダブル客室(25u)のu当り単価はトップシーズンのAでは1360円、オフシーズンでは760円であり倍近くの差がある。大阪市内ホテルの平均的な客室平方メートル単価が約1000円であることからすると、オフ、オンシーズンを巧みに読みきった料金だてと言えよう。今、ホテル業界で話題の効率的販売手法"イールド・マネジメント"の思想が具現化されている。
 
■ホテル日航ベイサイド大阪の事業コンセプト

ホテル日航ベイサイド大阪の事業コンセプトを要約すると次の通りと考えられる。

 @明快な、ポジショニング
 Aデザインセンスのよさ
 B収益性重視の部門ポートフォリオ

 日本では、現在まで、中級マーケットを標的市場とし、ポジショニングを3スターホテルに置くことを明確にしたホテルは少なかった。 3スターでありながら、日本マーケットの高級志向から高質志向への転換への動きを先取りし、インテリア・デザインに力点をおいた点は評価できる。しかしながら、インテリアそのものは、外資系を思わせながら、日本人デザイナーの限界も感じないでもない。 欧風建築のインテリアは、西欧人デザイナーに一日の長があることは否定できず、このホテルでも、微妙な違いが感じられる。 これは、夫々の文化の違いによるものであろう。 とは言え、従来の日系ホテルの多くがインテリア・コストを高額負担しながら、その効果を十二分に引き出せず、目標通りの結果を出せない現況に比べれば、デザイン面でのコスト・パーフォーマンスは明らかに高い。 部門ポートフォリオは、収益部門の核となる宿泊、イメージ・リーディング期待のスカイ・レストラン、宿泊の付加価値として温浴施設、低コスト低リスクでの宴会・ブライダル運営となる。収益性重視の部門構成は、今後の日本型ホテル運営のモデルケースといえよう。 表面にでない新ホテルでの新たな取り組みは、所有と運営の仕組みにある。 所有(綜合商事)と運営(日航ホテルズ)は、リ―ス契約を結んでいる。 オーナーである綜合商事は、建築コストのすべてとFF&E(内装・設備・什器)の殆どを負担し、オペレターである日航ホテルズ(経営主体)の投資リスクは極めて小さい。 従来のリース契約が、オーナー、オペレター間のスケルトン貸しをベースとし、オペレターに過重なFF&E負担を強いたがために、その経営を圧迫してきたことを思えば、大きな改善である。 不動産投資意欲と資金力が十二分にあるオーナーの存在が、この仕組みを可能にしたと言える。

■仲谷秀一の勝手所見
 USJ前という恵まれた立地環境と時代を先取りしたコンセプトのもと開業したホテル日航ベイサイド大阪の将来は、基本プランが現実のものとなるかどうかにかかっている。   それでは、ホテル日航ベイサイド大阪の課題と解決法を、おもいつくままに列挙してみよう。

@ 新たなるブランディングへの挑戦!
 同ホテルを経営・運営するJALホテルズには、国内展開する「ホテル日航」(20ホテル)と「ホテルJALシティ」(10ホテル)の2ブランドがある。 前者は、4スターから5スターに位置する都市型、リゾート型ホテルのブランドであり、後者は、宿泊特化のビジネスホテル、いわば3スターのポジショニングである。 結論から言うとベイサイド大阪は、本来、どちらのカテゴリーにも属していない。  同ホテルが、「ホテル日航」ブランドを使用する限り、従来の顧客イメージを損なう危険性があり、フル・サービスを期待する利用者からの不満が出る可能性を否定できない。 また、社員にとって、自ホテルのポジショニングとブランドの整合性がない状況では、オペレーション、セールス&マーケティング上、自らの施策実行に障害がないとは言えない。  そこで、このホテルが目指す新たなポジショングを社内外に示すために、新たなブランドをリリースしてもいいのではないかと考える。 例えば「ホテルJALアーバン・リゾート」など、いかがだろうか。

A 脱USJへの挑戦!
  都市型リゾートとしての成功の秘訣は、京阪神を核とした関西圏の個人客マーケットを引き寄せるために、独自のマーケティングを展開できるかどうかにかかっている。 大阪市内で、好調に推移している外資系ホテルの宿泊客シェアの内、地元客が大きなボリュームを占めていることに着目することである。 開業2年目を迎えたUSJが大方の予想通り、大きな落ち込みを見せている現在、旅行代理店依存であれば、大阪市内ホテルも巻き込んだUSJ団体客競争に埋没するだろう。 少なくとも、USJ対策は、インテリアの感性の高さをウリとして、カップル客、女性客の2人客など個人客が対象とし、グループ客、家族客狙いの周辺ホテルと差別化をはかるべきだろう。 となると、ダブルベッドルームはともかく、25uのツイン・ルームは、いかにも狭く見える。 この解決策としては、ハリウッド・スタイルにベッド配置を変更するのも一案ではないか。

B 脱ホテルレストランへの挑戦!
  団体専用ホテルに甘んじることなく、個人客人気を誘引するためには、スカイ・レストラン(32階)の役割が大きい。 大阪に数少ないトレンディ・スポットになりえるか否か、脱ホテル・レストランの軽やかなサービスと料理、そしてスタイリッシュな空間表現にかかっている。 

C さらに低コスト、低リスクのブライダルを目指して!
  いずれにしても、テイストの高い3スターホテルの登場は、大阪市内の既存ホテルに大きなインパクトを与えそうだ。昨年12月以降、ホテル業界へのUSJ効果に陰りが見える。初年度の団体中心の来場が一巡し、個人客リピーターの動向が不透明だからだ。 それ以上にホテル日航ベイサイド大阪のポジショニングと戦略は、日本のローカルマーケットにおけるホテル経営が如何にあるべきか、そのグランドデザインを問うものとして、大いに注目したい。