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仲谷塾長の執筆集Q

 

「今求められる総支配人像とは!」
〜総支配人に不可欠な7つのスキル〜


【第1のスキル】 情熱をもって語れる
【第2のスキル】 ソフトとハードをデザインできる
【第3のスキル】 数字に強い
【第4のスキル】 マスメディアに強い
【第5のスキル】 語学力がある
【第6のスキル】 パソコンを使える
【第7のスキル】 人脈をつくれる  


瀕死の日産自動車を、わずか3年で再生に導いたカルロス・ゴーン曰く「日本にないのは経営だけだ」。これを、我がホテル業界にあてはめると「日本のホテルにないのは総支配人だけだ」となるのだろう。日本のホテルもまた、その再生は、ビジネスリーダーである総支配人が登場するか否かに掛かっているのだ。 バブル崩壊後、財務・人事リストラを掲げて親会社から天下った社長や、管理系出身の経営幹部が主流をしめたホテル業界だが、引き算だけではホテルの存続は危うい。次に登場したのは外国人総支配人や、海外でホテル経営学を学んだ日本人エリート、ホテリエの卵たちだ。外資系ホテルはもとより、日系ホテルチェーンまでもが、海外へ人材を求めた。しかし、世界都市である東京や、外資系同士の競争の少ない大阪では成功を収めえても、地方都市では海外ノウハウが活かせず苦戦を強いられる。外資系間の激戦がはじまった東京でも、今後、同様な事態が予想される。内外事情に精通した業界の権威は「日本に赴任した外国人ホテル幹部の成功率は17%に過ぎない」とまで言い切る。17%かどうかは別にしても、ブライダル、一般宴会、レストランはもとより宿泊ですら地元需要志向が強い日本では、総売上の80%は、ローカルマーケットから発生し、その対応が海外勢のアキレス腱となっている。内外からリーダー不足がさけばれる日本社会、ホテル業界も例外ではない。しかし、だからこそ、総支配人へのチャンスが大きくが開かれたともいえる。 

カルロス・ゴーンの成功は、外国人の故ではない。氏が、真に優れた経営者であり、経営の技(スキル)の持ち主であったからである。グローバルスターダードのホテル経営システムンに通じ、日本マーケットに適合させうる総支配人の技(スキル)とは何であろうか。


第1のスキル
  情熱をもって語れるか

リッツ・カールトン・カンパニーのシュルツィ前社長は、全世界に展開するリッツ・カールトンを行脚しながら、宣教師さながらに従業員に熱く語りかけた。 その経典はクレド(ミッション・ステーツメント)であったことは想像に難くない。ボール・ルーム一杯にあふれた社員へ熱きメッセージを送った後、氏は必ずこう締めくくった。「皆さん、明日のボール・ルームの予約はどんな内容でしょうか?」そして答えを聞くと、「じゃ、皆でスタンバイしょうではありませんか」と、自ら椅子を動かしはじめ、新たな感動を生んだ。 トップ自らが、言った通りに率先行動することは、どんなメッセージより共感をよぶものだ。総支配人に求められるスキルの第1は、従業員一人一人に二人称で、熱く語りかけることである。 従業員を名前で呼びかけ、励まし、語りかけることができれば、モチベーションは確実にあがる。たとえ200人、300人を前にしても同様に、一人一人の目を見ながら語りかけることが重要なのだ。どんなによく出来たミッション・ステーツメントも、トップが自らの言葉で、事例をあげてわかりやすく、そして情熱を込めて語らなければ実行されることはないのである。


第2のスキル ソフトとハードをデザインできるか

ホテル業は、ファッション業に近い。 身につけて楽しむのがファッションなら、ホテルは、ファッションを楽しむステージを提供している。ところが、多くの日本のホテルは、ゲストを緞帳の降りた劇場の観客席に座らせているようだ。いくら贅をつくした豪華な緞帳であっても、舞台上にアトラクティブなドラマがなければ感動をよぶことはない。ゲストをホテルと言う舞台に引き込み、ゲスト自らがドラマの主人公になれるよう演出しなくてならない。  シェラトンに運営が変わるまでのシーガイアの豪華ホテル、オーシャン45(現シェラトン・グランデ・オーシャン・リゾート)は、南国のリゾート・ホテルであるにも関わらず高級感があり豪華であった。しかし、宮崎の雰囲気とかけ離れた都会的すぎるロービーは寒々としていた。そして、ベル・スタッフの挨拶は、あくまでも慇懃でくつろげないものであった。現在は、ロービーには観葉植物が植え込まれ、太陽の輝きが緑に映えて、居ながらにしてリゾートを満喫できる。 ロビースタッフの動きもカジュアルなものになり実に快適になった。 総支配人の第2のスキルは、ソフト(サービス)と、ハード(内装・設備)に対するデザイン力である。 デザイン力の根源は感性にある。感性は、総支配人自らが、よきホテルユーザーになることで磨かれる。そして、ホテルの性格は、総支配人の感性そのものが投影されるのだ。 


第3のスキル 数字に強いか

親会社から天下りし、異業種から参入した俄ホテリエたちは、プロパーのホテリエは数字に弱いと口をそろえる。しかし、稼いだ金を計算し、結果数字を後おいすることが、数字に強いとはいえないのだ。ユニフォームシステムをはじめとする管理会計で必要ことは、足し算と引き算、掛け算と割り算でしかない。代数でもなく微分、積分でもない、単純に小学校レベルの算数が出来ればいいのだ。重要なことは、コストを最小限まで削ぎ落とし、かつ商品価値を最大化し売上を伸ばすことであり、そのバランスが、利益となるのである。 商品価値を高め、売上を伸ばすには、徹底して、消費者ニーズをつかむことが必要となる。ブライダル、レストランは、もとより宿泊、宴会利用も、日本人のライフスタイルと連動している。ライフスタイルを読み取ることによってビジネスチャンスがつかめる。  総支配人に求めら第3のスキルは、数字に強くなること、即ち数字を創ることであり数字を計算することではないのだ。 


第4のスキル マスメディアに強いか  

広告宣伝費を、総売上の2%ぐらいしか使えないホテル業では、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどのマスメディアへのパブリシティは、貴重なPR手段である。ましてや、地元個人利用に負う事が大である日本のホテルでは、地元メディアとの友好な関係が重要となる。記者との友好関係は、総支配人が直接、広報活動に乗り出すことによって生まれる。 ホテルは、社会に対する存在感が強いため自他ともに大企業のごとく認識されているが、本来単体ホテルの規模は、従業員4〜500人、年間売上100億円ぐらいの言わば、中小の地域ビジネスであり、総支配人とは、中小企業の社長に他ならない。広報担当のフィルターを通すまでもなく、総支配人自らが中小企業のトップとして、日常的にメディアに対応してホテルの一番ホットなニュースを流すことが極めて有効である。何故なら、記者達は、常にトップの声を求めているからである。記者には常に心を開き、互いに信頼出来る友人になることが総支配人の第4のスキルだ。記者に自ホテルの情報を押し付けるのではなく、記者が必要とする業界の情報、地域社会の情報も集めて提供することを怠ってはならない。


第5のスキル 語学力はあるか

いくら日本マーケットに対応することが重要と言っても、ホテルは、国際ビジネスである。 総支配人は、ホテルや地域を代表して、諸外国人とコミュニケーションをもつ最低限の英語力が必要だ。語学力を否定する総支配人の下には、語学力のない部下しか集まらないであろう。英語の他、フランス語は必須である。日本の料理人は非常に勤勉かつ優秀で、シェフクラスになると、中学・高校しか出ていなくても、フランス語の読み書き、会話さえも堪能な人が多い。日本のホテルで料理人だけの特別な世界が生まれ、経営陣のコントロールが効かなくなった一因は、総支配人をはじめとする経営幹部がフランス語を不得意であったことも否定できない。総料理長のメニューのフランス語を添削出来るぐらいでないと料理人に認められることはない。総支配人の第5のスキルは、最低限の英語と、フランス語である。あえて付け加えると、外国人総支配人が日本で活動する場合、日本語が必須となろう。何故なら、従業員はもとよりゲストの大半が日本人だからである。


第6のスキル パソコンは使えるか

ホテルのみならず、幅広い産業界で情報化が進む中、事務効率を高め、バックオフィスの省力化を図るには、パソコンとネットワークの導入が不可欠であろう。システム導入の可否はトップのリーダーシップに負うところが大きい。総支配人が率先してLAN(社内情報ネットワーク)での情報交換を推進すれば、ホテル全体の情報化は確実に進む。 総支配人の第6のスキルはパソコンなのだ。


第7のスキル
 人脈をつくれるか

以上、6つのスキルをあげたが、最後にもう一つスキルをあげるとすれば、ホテル馬鹿にならないことである。ホテルを長年やっているとホテルしか見えない人が多くなる。総支配人が、ホテル内、業界内で活動することは否定するものではない。しかし、ホテルの存在意義が地域社会との関わりあいであるとすれば、ホテルのゲストになり、また協力者ともなる異業種の人々との交流、情報交換を深めることが不可欠になる。人脈つくりこそ総支配人の第7番目のスキルなのだ。