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仲谷塾長の執筆集S |
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大阪学院大学 流通科学部教授 A Study on the Introduction of the Uniform System of Accounts for the Lodging Industry in Japan Hidekazu Nakatani Abstract With the tide of foreign hotel chains advancing into the Japanese hotel industry and the internationalization of the hotel business through inflows of foreign capital, it is inevitable that the Japanese hotel industry introduce the Uniform System of Accounts for the Lodging Industry, an international standard of accounting first established in the United States of America. In this Chapter, I will clarify a variety of managerial tasks to be addressed prior to the introduction of the Uniform System of Accounts in Japan, as well as the main reason for the system being introduced, problems in profit management.
2000年代に入り、日本国内の日系ホテル企業において、海外のホテル業界で幅広く採用されているホテル版国際会計基準ともいうべき通称ユニフォームシステムが急速に導入されはじめた。数年前まで、制服規定と混同されるぐらい業界で知るものも少なく日本での認知度が高くなかったユニフォームシステムが何故、注目をあびるようになったのであろうか、その背景には、次のような要因が考えられる。 1番目は、外資系ホテルチェーンの日本進出にある。フォーシズンズホテル椿山荘東京、パークハイアット東京、ウェスティンホテル東京の新御三家(注1)をはじめとする外資系ホテルは、ゼネコン、航空会社、鉄道その他の日本企業が親会社として土地・建物を所有し、これら親会社が設立した運営子会社が経営しているが、運営に関しては、マネジメント契約(Management Contract、以下MC)方式(注2)により海外の大手ホテル運営企業が受託し、ホテル運営企業から派遣された総支配人が運営すなわち事業執行にあたることが多い。これらの外資系ホテル運営企業では、チェーンホテルの業績を円滑に一括管理するために、長年にわたり国際的な統一ホテル会計基準であるユニフォームシステムを採用してきた。 こうして外資系ホテル運営企業とのMCで開業する新規ホテルや、業績不振の打開のためリブランド(ブランド変更)による外資系ホテルチェーンへの営業変更(注3)を望む日系ホテルは、外資系ホテル運営企業の意向に従いユニフォームシステムを採用することになる。 2番目の要因は、外資系投資会社、投資銀行が日系ホテルをM&Aする場合の必要性である。従来、日系ホテルのほとんどが、他の日本企業と同じく決算を目的とした財務会計を採用してきた。しかしながら、財務会計には外資の求める事業収益性に関する重要なデータが欠落しており、M&Aの大きな障害となっていた。破綻に追い込まれた第3セクターに代表される日系ホテルや、ホテル部門の売却・撤退を考える日系ホテルの親会社は、M&Aを前提として望むと望まざるを問わずユニフォームシステム方式による財務諸表の作成を迫られているのである。 3番目の要因は、外資系ホテルの事業収益上の成功事例を目の当たりにした日系ホテルや、その親会社が、表面的にユニフォームシステムを導入する例である。多くの日系ホテルでこの傾向が見られるが、もとより会計基準を変更しただけで、事業収益性が向上するはずもなく、マーケティング力の強化や経営の効率化が図られなくては、業績の好転は望むべくもない。この種の日系ホテルでは、中高年齢スタッフの人事リストラや給与カットによる短期的、対症療法的な収益改善ははかれても、長期的な視点で、経営の変革に踏み出せていないのが実状である。ユニフォームシステム導入失敗の最も甚だしい例においては、経営者が、ユニフォームシステムを、収益を向上させる方法や方式を組み込んだ運営システム、ないしは情報システムソフトであると誤認していることさえある。システムと言う言葉に過剰反応したものと思われるが、ユニフォームシステムは、単に会計基準であり、ここで言うシステムとは、統一された制度と言う意味に解釈されるべきであろう。自動車の運転に例えると、ユニフォームシステムは、スピード、燃料消費、走行距離などを表示するコンソールパネルのメーター器機であり、機械系統やエンジンではないのである。 以上述べたように、外資系ホテルや、投資家には一般的であるユニフォームシステムも、日本の経営土壌では正常に機能していないように見受けられる。本論では、ユニフォームシステムが、外資系ホテルにおいて、会計基準として有効に活用されているにもかかわらず、日系ホテルでは、本当の意味で受け入れられていない現状について検証し、さらに、今後日本のホテル業界において事業収益性の正常化に向け、事業執行者としての総支配人がユニフォームシステムを如何に運用するべきかを明らかにしてみたい。
2 ユニフォームシステムの役割 ユニフォームシステムは、米国初の統一されたホテル会計制度として、近代ホテル経営の創始者とも言うべきエルスワース・M・スタットラー(注4)を委員長として、ニューヨーク市のホテル経営者、会計専門家からなる策定委員会で1926年に制定され、同年ニューヨーク市ホテル協会により教本の初版が出版された。以来9版の改定を重ね、現在は全米ホテル&モテル協会、国際ホスピタリティ会計士協会の認定にもと、米国内のみならず、幅広く世界の大手ホテルチェーンにおいて、採用されている。
以上、1920年代にニューヨークで策定されたユニフォームシステムが、何故、70数年もの長きにわたって世界の大手ホテルチェーンで採用され続け、何故、今また日本のホテル業界にも導入されようとしているのかを述べてきた。次に、その必要性と役割について眺めてみよう。「統一ホテル会計基準」としてのユニフォームシステムには、2つの役割があると考えられる。
まず第一番目の役割は、会計基準を統一し、共通した内容の諸勘定や勘定科目を用いることにより、複数のホテル間における財務内容の比較を容易にすることである。 オーナー同士、または投資家との間でホテル資産や経営権のM&Aが持ち上がった場合、当然のことながら財務上の共通認識にたった会計基準は必要となる。 近年、外資系投資会社や投資銀行が日系ホテルの買収を検討する場合、当該物件の財務諸表がユニフォームシステムで作成されていないため、資産査定に困難をきたす事態が多発している。外国資本の考える資産価値とは、土地建物の取得額や建築費によって決まるのではなく、事業収益性を重視し、当該資産がホテル運営上どれほどの資産運用価値を生み出せるかというアセットマネジメント(Asset Management)の発想から算出される。 例えば、外資系投資会社や投資銀行は、投資物件の資産運用価値を、後述するGOP(Gross Operating Profit営業総利益)で評価し、その約10倍が買収額の目安となると言われている。しかしながら日系ホテルの場合、単にユニフォームシステムを導入していなかったと言うのみならず、長年の間、管理会計の思想が欠如していたため、費用に関する予算統制と管理が甘く、本来、当該資産の事業収益として確保されるべきGOPが、実際には数分の一しか確保されていないと言う事態も散見され、外資系投資家によるM&Aの障害ともなっている。 また、ホテルの所有・経営と運営が分離分業することが多い海外においては、所有・経営するオーナーが、ホテル運営を委託すべきオペレーターを選ぶ際、オペレーターの実績を判定するために「統一ホテル会計基準」は必要となろうし、オペレーターにおいても、チェーンオペレーション上、傘下のチェーンホテル間で業績比較を実施するために、「統一ホテル会計基準」は、必須となる。
ユニフォームシステムの2番目の役割は、管理会計であることである。ユニフォームシステムにおいて作成される財務諸表(Financial Statements)は、貸借対照表(Balance Sheet=図表1)損益計算書(Statement of Income=図表2)、株主資本計算書(Statement of Owner's Equity)、キャシュフロー計算書(Statement of Cash Flows)と財務諸表注記(Notes to the Financial Statement)であり、これに部門別損益計算書(Departmental Statements of Income)が添えられる。ユニフォームシステムの運用において最も重要であるのは、部門別損益計算書であり、部門別損益計算書は、要約損益計算書(Summary Statement of Income=図表3)と各部門の付属明細書(Supporting Schedules=図表4)として作成され提供される。これら部門別損益計算書は、通常月次で作成され、宿泊、料理、飲料、その他(電話、駐車場など)からなる収益部門(Operated Departments)と、マーケティング、管理部門からなる非配賦営業費用(Undistributed Operating Expenses)(注6)にわけて、部門ごとの売上、費用、損益が明快に表現される。部門別損益管理の基本思想は、原価発生主義であり、売上、費用は、勘定科目ごとに発生の都度、部門に割りふられる。一見煩雑に見える仕訳作業であるが、このことにより部門ごとの数字的な業績評価とその要因を逐一把握でき、予算管理が容易となる。 以上述べたように、ユニフォームシステムにおける部門別損益計算書は、総支配人や部門長による運営の意思決定や業績評価などに必要な情報を提供するための管理会計の側面をもつ。一方、多くの日系ホテル企業は、決算に照準をあて、株主、債権者など企業外部の利害関係者に分配可能利益に関する情報を提供し、その利益を調整することを目的とした財務会計を主として採用してきた。財務会計においては、業績の要因となる部門ごとの発生費用の迅速な把握が困難であることから、現状のような不況期にあっては、ホテル運営上、特に問題となる。しかしながら、日系ホテルにおいても部門別損益管理の発想はないわけではなく、多くのホテルで独自の損益管理が試みられたが、あくまでも財務会計的発想で集計された部門別損益計算書は、発生部門の把握や予算統制が迅速に行えず管理会計としては不十分なものとなった。その他、日系ホテルの部門別損益管理が不調に終わった要因は、予算統制上における各部門長の責任範囲の不明確さと、権限の委譲が充分なされていないことがあげられるが、これについては後述することにする。
ここでは、MC方式で運営される外資系ホテルの事例をもとに、ユニフォームシステムによる収益管理について述べてみよう。先にも述べたように、ユニフォームシステムで作成される財務諸表そのものは、一般的な財務会計における財務諸表となんら変わることはない。しかしながら、管理会計であるユニフォームシステム方式の財務諸表が、財務会計のものと基本的に異なる点は、諸費用を発生部門ごとに仕訳した付属明細書を基本データとして作成されていることであり、これにより数字の発生原因が容易に追究できる点である。 まず、収益管理の第1段階は、部門利益(Departmental Income)に関するものである。 ホテルのプロフィットセンター(Profit Center)である収益部門は、大きく宿泊、料理、飲料、その他の部門にわけられる。各部門では、それぞれを所管する部門長(部長)が直接コントロール可能な原材料費、直接人件費、販売管理費などの部門費用と部門売上とのバランスが部門利益となり、各部門長がその収益責任を負う。全館にかかわる費用や、管理部門の費用は、非配賦営業費用として、この段階では収益部門に配分されず、部門長は心置きなく、自部門の売上増、コスト削減に傾注できる。 以上述べたように部門別の収益管理においては、会計方法の統一性が重要となる。例えば、客室、料理、飲料などの部門利益は、売上からその部門に帰属可能な限られた種類の費用を差し引くことにより計算され、非配賦営業費用や賃貸料、保険料、減価償却費などの固定費は、部門売上から差し引かれない。このことは、部門利益の測定方法を統一する効果があり、事業単位ごとの比較を可能にしている。しかしながら、部門利益測定におけるこのようなアプローチの結果として、部門利益に影響を与えたと思われる非配賦営業費用があってもこれが数字的に表現されないこととなる。部門の収益性を正しく評価したり、商品やサービスの価格を決定したり、サービスを外注しようとする場合には、非配賦営業費用の中から例えば保守・修繕費用、賃貸料など部門への配賦可能な帰属可能非配賦費用(Traceable Undivided Expenses)を控除した修正部門利益(Allocated Undistributed Profit)を算出することが有用となろう。修正部門利益を意識できる部門長は、意識しない部門長より費用全体に関心をもち、消費に対してより慎重となる効果がある。このようなことから、ユニフォームシステムでは、責任会計(Responsibility Accounting)の概念にもとづき、別途に補助的な収益部門損益明細書(Revenue Department-Schedule of Profit or Loss)を作成することを提案している(注7)。
次に第2段階の収益管理は、総支配人の所管するGOPに関するものである。 総支配人は、各部門費用の合計に加え、人事、経理、総務などの管理部門や、現場をサポートするマーケティング部門の人件費、光熱費をはじめとする間接的な販売管理費など非配賦営業費用の総合計とホテル総売上のバランスであるGOPの責任を負う。ここで言うGOPとは、あくまでもホテル業界における通称であり、ホテル企業によりハウスプロフィット(House
Profit)とも称される。MC方式の場合、GOPは、総支配人の責に帰するとともに、運営委託契約で総支配人を派遣しているホテル運営企業が契約上、責任を負うことになる。
総支配人には、資金調達、資産所有・使用や経営にかかわる賃貸料(Rent)、資産税 (Property Taxes)、保険料(Insurance)、支払金利(Interest)、減価償却費(Depreciation
and Amortization)の固定費(Fix Charge)に対する直接的な責任はなく、運営に特化してホテルの事業性を高め、収益増をはかることに傾注できるのである。しかしながら、総支配人が、上記費用や、それら費用控除後の利益に無関心でよいのではなく、2次的には、次項で述べるオーナーの経営責任の一旦を担う意識で運営にあたることが肝要である。
GOPに該当するユニフォームシステムでの項目表記は、ユニフォームシステム教本第6版(1966年)まではGOPそのものであったが(注8)、第7版(1976年)ではIncome
Before Fix Charge、第8版(1986年)ではIncome Before Management Fee and Fix Charge、現行第9版(1996年)ではIncome
After Undivided Operating Expenses(非配賦営業費用控除後利益)に変更されている。 GOP(営業総利益)で表される数字は本来Gross(総)でもなくOperating(営業)でもないので、ホテル業界以外では理解されにくく、幾分あいまいな表現であったため、9版に至りより正確な会計表現に改訂されたものと考えられる。
最後にオーナーは、GOPから、賃貸料、資産税、保険料、支払金利、減価償却費、マネジメントフィおよび法人税(Income
Taxes)を控除した純利益(Net Income)が、その責任範囲となる。オーナーは、通常、自社が選任した経営管理者(ホテル運営子会社に派遣した社長)を通して、大所高所から運営を監視するだけで、運営を総支配人に委ねてGOP目標をせしめ、自らの収益を確保することができる。従って、オーナーにとって一番重要な仕事は、自社の資産を運用して、最大の事業収益をもたらしてくれる総支配人や、その派遣元であるホテル運営企業を選択することにほかならない。
4 まとめにかえて、ユニフォームシステム導入の課題と展望 4‐1 ユニフォームシステム導入と経営改革 「統一ホテル会計基準」としてのユニフォームシステムを導入しようと試みた日系ホテルは少なくない。しかしながら、多くの事例で部門別損益管理が機能していない実体がある。なぜならば、2節でも述べたように、部門別損益管理が不調に終わった原因として、予算統制上における各部門長の責任範囲の不明確さと、部門長への権限の委譲が充分なされていないことがあげられる。日系ホテルにおいては、多くの日本企業がそうであるように、部門長(部長)といえども、自部門内の人事権を与えられているわけではなく、部門別費用の大きな部分を占める人件費の統制を自ら行うことができないのである。ここでいう人件費の統制とは、単に人件費の抑制ではなく、人事権行使による人件費の効果的な配分と言うべき内容を示している。
以上述べたように、ユニフォームシステムの導入は、その前提として人事権、予算執行権の当該収益管理責任者への権限委譲が伴われなければ実効性のないものとなる。ユニフォームシステム導入の真の意義は、単に新たな会計基準の採用にとどまらず、その要諦は、人事制度を含めた経営の意思決定システムの改革に他ならない。
ユニフォームシステムが、日系ホテルに定着しにくいもう一つの理由は、日本のホテル業の特殊性があげられる。売上の約70%が宿泊売上、約30%が料飲部門である海外のホテルと逆に、宴会、食堂などの地元利用が大勢を占める日本のホテルでは、料飲部門の売上は、全体売上の70%以上にもなる。しかしながら、ユニフォームシステムは、本来、宿泊部門の収益管理を主体に考えられた会計基準であり、それに続く料飲部門と、その他部門は、あくまで付帯部門の扱いでしかない。ここでは、料理、飲料の売上や、それに対応する原材料費は、料飲部門合計で表現され、一般宴会、ブライダル宴会、レストラン&バーごとの収益管理を細密に行うことができない。
(5) "Uniform System of Accounts for Lodging Industry Ninth Revised Edition"1996 の訳本である『米国ホテル会計基準』(大塚宗春監修、山口祐司訳、税務経理協会2000年)ではUniform System of Accounts for Lodging Industryそのものを「ホテル統一会計システム」とその性格を位置付けた上で、「米国ホテル会計基準」と翻訳して いる。 (6)Undistributed Operating expensesは、前掲書『米国ホテル会計基準』においては配賦不能営業費用、"Uniform System of Accounts for Hotels Seventh Revised Edition"1977の訳本『ホテル会計基準』第7版(品田誠平監訳、東洋書店1984年)においては未配賦営業費用とあるが、本論では非配賦営業費用とした。 (7)前掲書『米国ホテル会計基準』、pp230〜231 (8)前経書『ホテル会計基準』第7版、pp16〜17
[1] The Hotel Association of New York City, Inc. "Uniform System of Accounts for Hotels Seven Revised Edition" , 1977 (品田誠平監訳『ホテル会計基準』第7版東洋書店1984年) [2] The Hotel Association of New York City, Inc. "Uniform System of Accounts for Lodging Industry Ninth Revised Edition" , 1996(大塚宗春監修、山口祐司訳『米国ホテル会計基準』税務経理協会2000年) [3] 井上博文『ホテル会計制度』明現社1995年 [4] 仲谷秀一「ユニフォームシステム入門」『HOTEL,Vol4』関西電力2001年 [5] The Hotel Association of New York City, Inc, "Uniform System of Accounts for Hotels Eighth Revised Edition" ,1985 6] The Hotel Association of New York City, Inc. "Uniform System of Accounts for Lodging Industry Ninth Revised Edition" ,1996 [7] Raymond S. Schmidgall, "Hospitality Industry Managerial Accounting Forth Edition" , the Educational Institute of the American Hotel & Motel Association, 1997 [8] Michael M. Coltman, Martin G. Jagels, "Hospitality Management Accounting Seventh Edition", John Wiley & Sons, 2001
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