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仲谷塾長のエッセイ・論文集K

 

「関西ホテル業界における構造改革と課題」

月刊イグザミナ2001年11月号掲載


■USJシナジーを生かす  

 USJ効果にわく大阪のホテル業界。4月から8月までの大阪市内主要ホテルの売上は、前年対比約30%増と好調だ。 北区のリーガロイヤルホテルと南港のハイアットリージェンシーオーサカの2ホテルは、8月単月ではあるが、対前年売上70%増の驚異的な伸びを示した。7月18日USJ 周辺に開業した、ホテル京阪ユニバーサルシティ、ホテル近鉄ユニバーサルシティの2ホテルも家族客や団体の受注が好調で、順調なスタートと聞く。
 USJへの首都圏をはじめとした遠距離集客が予想以上に多かったからだ。 USJへのアクセスのよさと、家族客受け入れ体制の充実を強力にアピールした市内ホテル群が、遠距離客の受け皿となりえたからともいえる。 ホテルの供給がより多くのUSJ需要を呼び起こし、相乗効果(シナジー)が大いに発揮された。  バブル崩壊以降、オーバーサプライ傾向の中で、法人需要の減少、個人消費の冷え込みのダブルパンチを浴びた大阪のホテル業界も、ようやく長期業績低迷から脱したのだろうか。
 日本の平均的都市型ホテルの総売上に占める宿泊部門売上の比率は、約30%、残り70%のほとんどは、一般宴会、ブライダル宴会、レストラン・バー売上など料飲部門である。 欧米ホテルが、宿泊70%、料飲30%の売上構成であることからすると、いかに日本のホテルが料飲部門に特化しているかがわかる。 特に、個人消費に密着していると言われる大阪のホテルは、料飲特化の度合いが全国平均より高い。 一般宴会は、相変わらず企業の経費節減でパイを縮小し、ブライダル宴会は少子化の影響が顕著となった。 レストラン部門も、宿泊にともなう朝食客増以外、プラス要因がみつからない。 どうやらUSJ効果も宿泊部門に限定され、ホテル経営そのものを、根底から活性化することが難しいようだ。  しかしながら、USJシナジーが期待できる今こそ、ホテル経営における構造改革をすすめる絶好のチャンスであることに代わりはない。 目先の収益のみならず、中長期に収益性をたかめる経営の仕組みへの変革が求められている。  

 

■所有と運営の分離  

ホテル経営には、二つの側面がある。 一つは不動産業的側面、即ち土地建物の所有である。 長期タームで投資し、優良資産であれば比較的安定した運用益を期待できるミドルリスク、ミドルリターンのビジネスだ。 対して二つ目の側面は、ホテル業である。 日々のホテル運営を通して、短期で事業収益性を高めていく。 固定費をおさえることができれば、元来、売上に対する変動費比率が低いホテル業では、マーケット適合と言う大きなハードルをクリアすることによって、大きなリターンを確保できる。 言わば、ハイリスク、ハイリターンのビジネスなのだ。 ホテル業は、儲からないと言う固定概念が定着しつつある現在、いささか奇異に聞こえるかもしれないが、宿泊部門を強化した外資系ラグジャリーホテルや、宿泊特化のエコノミーホテルが高収益をあげているのを見れば、納得できる話である。
 日本のホテル経営において、所有と運営が一体化された会社として存在していることが、多い。 異質な経営の側面が、少なからず互いの存在価値を阻害し、経営体質を弱める要因となっている。 不動産業とホテル業では、経営の目標や視点、意思決定のスピードが大きく異なるからだ。   加えて、バブル期の土地建物への過剰投資は、ミドルリスクであるべき不動産部分をハイリスクの渦中に落とし込こんだ。 一方、ホテル運営においては、人件費増などによる固定費の増大、料飲への傾斜による原材料を中心とした変動費比率増、および価格破壊による売上の低迷により、ローリターン体質が恒常化した。  このようなハイリスク&ローリターンの危機的状況を脱するためのキィ・ワードは、"所有と運営の分離"に他ならない。 即ち、所有と運営が個別に専門特化し、事業展開の効率化をはかる。 これこそ、ホテル経営における構造改革のグランドデザインなのだ。   

 

■ホテル経営における構造改革

 現在、関西の大手私鉄を中心に、ホテル事業の再編成が進んでいる。 近鉄、阪急の2社は、この数年の間に相次いで、ホテル資産所有とホテル運営の分離をはかった。 同様の動きは、全日空など航空会社系やホテルオークラなど専業系にもある。 その大きな枠組みはこうだ。 近鉄グループの場合、従来、傘下17のホテルは、それぞれにホテルの土地建物を所有し運営するホテル会社として個別に経営を行っていた。 1998年に、直営ホテル子会社9社の土地建物を親会社である電鉄本社が買いあげ、資産を一括所有し、同時にホテル運営統括会社として近鉄ホテルシステムズを設立、子会社各社の営業権を譲りうけ、ホテル運営を一元化することを発表した。 従来のホテル会社は清算し、従業員は新たに設立された地域ごとの運営子会社に吸収された。 名古屋都ホテルなど非採算ホテルを撤退するなど背水の陣の中で、不動産不良債務と塁損の足枷から解き放たれた各運営子会社は、ホテル運営にのみ専念し、着実に業績回復基調に向かっている。 ホテル統一会計基準・ユニフォームシステムにもとづく収益管理手法を積極的に導入することにより、部門毎のコストセービングがすすみ運営効率が一段と高まったのだ。
  このように、構造改革に手をつけたチェーンホテルには、運営上の改善の兆しが見える。しかし、世界マーケットで運営力、ブランド力、販売力を磨きあげた外資系チェーンとの競争に生き残るには、まだまだ、十分とは言い難い。 他方、所有部分においても、親会社や資産保有会社に積み替えられた不良債務は、損失計上の先送りでしかなく、いつかはそのつけを払うことになる。 ホテル経営においても、構造改革の道のりは、まだまだ厳しく遠い。