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仲谷塾長のエッセイ・論文集L

 

〜日本型人事システムの課題と展望〜
「ホテル社員のキャリアアップと処遇」

(2002.2.25 UP)


 20世紀も終ろうとする1990年代末、日本全国のホテルに吹き荒れた企業破綻の危機。そして、財務・人事リストラクチャリング、企業再編と、危機回避へ懸命の努力が続けられた。日本ホテル企業は、ようやく再生への緒についたかのように見える。   
しかし、再生とは言いながら、その仕組みは20世紀型、年功序列、終身雇用制の会社運営となんら変わることはない。能力主義にもとづく人事・採用システム、企業内キャリアアップの道は、未だ開かれていないのだ。

 
元来、労働集約型産業であるホテルにとって、事業収益性を高め、ビジネスを安定的に継続していく上で、人事の効率化、人件費の抑制は、経営上、最大の課題であるといえる。一応の成果を見せたかのように見える人事リストラも、裏を返せば単なる中高年齢層の足きりでしかない。ホテル業界の将来を担うべき人材の発掘と育成のメカニズムが確立していないのだ。

 その一方で、人材の流動化をはかりながら、業績を伸ばしていく外資系ホテルの存在。 本章では、日本ホテル企業が直面しながら、今尚、抜本的解決の見えない人事システム上の問題を、外資系ホテルとの比較において、新入社員への処遇とキャリアアップの実態から明らかにし、将来ホテル業界を目指す方々にメッセージとして贈るものである。

(本文は、オータパブリケイションズ刊「2003年度ホテル就職ガイド」掲載の
  拙文に加筆したものである)



■ 新入社員の収入と待遇

 ホテル業界において、定期採用された新入社員の平均的な給与面の処遇は、次のようになる。初任給は大卒で月額16万円から18万円、短大・専門学校卒で14万円から16万円(いずれも2002年度)加えて、賞与が年2回(夏、冬)支給される。賞与は、年2回合計で、月額の4ヶ月から5ヶ月相当分の支給が平均的であるが、入社初年度の夏は、少額が支給される。年収に換算すると、初年度大卒260万円、短大・専門卒230万円と言ったところだ。  
 但し、これはあくまでもスタートであり、その後、どのように昇進を重ねて、昇給するかは本人次第であることは言うまでもない。  
 
年次休日数も重要だ。概ねホテル業界も週給二日制に移行しているが、年休は100日から118日と企業間に格差がある。この他、有給休暇は10日程度あり、勤続年数に応じて最大20日まで伸びるのが平均的だ。健康保険、厚生年金、労災、雇用保険など、社会保険は通常、整備されている。その他、交通費の支給限度額、寮設備の有無も見逃せない。  


■ 多様化する採用システム

 外資系ホテルも含み、ホテル企業の多くは、定期採用を実施している。しかし同時に、中途採用を通年で実施するホテルも増えてきた。外資系の有名ホテルの中には、通年採用のみのホテルも在るほどだ。この背景には、「必要な人員を必要とする部署に必要な時に採用する」、「本当にやる気のある人材を、時間をかけて見極める」との考えがあるからだ。 
 中途採用者の身分は、定期採用組の正社員より賞与・年休が若干低い契約社員であり、年次更新される。そして、優秀な契約社員には、当然ながら、正社員登用の道が開かれているはずなのだ。もし、契約社員に次のステップを用意していないホテルがあるなら、そのホテルは人事システムが硬直化していると見るべきだろう。日系ホテルの中には、この種のホテルがあることも確かだ。


■ 外資系ホテルのキャリアアップと昇進

 ホテルのみならず、ビジネス社会は、能力・成果主義の時代に入った。定期採用の正社員だからと言って、将来が保証されているわけではない。外資系ホテルでは、契約社員にも、正社員から、キャプテン、アシスタントマネジャー、マネジャーと昇進のチャンスがある。実力次第では、総支配人も夢ではないのだ。   
 例えば、35歳のホテリエを例にあげよう。彼または彼女が、1クラークであれば、年収400万円に留まっているかもしれない、しかしマネジャーなら700万円も可能だ。外資系ホテルなら、副総支配人クラスに昇進することもありえる、だとすると年収は1000万円を超える。そして、数年後に30代にして総支配人になれば、2000万円近い年収が約束されるのだ。実際、外資系ホテルでは、このような日本人総支配人も既に誕生した。  
 では、どんな人材が昇進するのかと言うと、「自己の仕事を絶えず変革、向上できる人」「部下の指導が出来る人」、そして「業績を伸ばすことが出来る人」となる。このような、ビジネスマン的資質とともに忘れてはならないのは、「周りの人々を楽しませることが出来る接遇者」としての磨かれた感性であることは言うまでもない。


■ トレーニングプログラム

 社員のキャリアアップを図るため、ホテル企業では様々の支援を行っている。日系ホテルでは、自己啓発的研修が推進される。語学、接遇、専門技術研修などだ。これらの研修の成果を給与に反映し、奨励手当てを出す企業もある。 
 外資系ホテルにおいても、同様の研修が行われるが、幹部教育の面で、日系ホテルより一歩すすんでいる。一定の現場経験で優秀な成績を収め、将来性を認められると幹部候補生となる。マネジャー見習として短期間で多くの部署を経験し、海外本社でのマネジメント研修も待っている。こうして上級職へ進む道が開かれるのだ。 
 全体的なボトムアップを考える日系ホテルにくらべ、外資系では優秀なリーダー育成が重視される。従って前者は、昇進はゆるやかであるが身分は安定すると言える。一方、後者は、昇進へのチャンスが多い反面、同僚間の競争も激しい。
 しかし、ホテル社員が安定的な昇給や、ゆるやかな昇進を謳歌できる時代は、過ぎ去ったと言うべきである。自己啓発的に専門知識や、スキルを磨くだけでは、ホテル業績に貢献するのは難しく、ホテル自体の運営は脆弱なものに、なるからだ。 その一方で、外資系ホテルにおいて、自らキャリアアップを求め、知識・技術のみならず、ビジネス・リーダーとして、マネジメントの視点を身につけた人材は、ホテル企業にとって貴重な存在となった。


■ 明日へむけて

 21世紀にはいって、ホテル業界では急激に人材の流動化がすすんでいる。その起動力になっているのは外資系運営会社の躍進である。宮崎のシーガイアでは、リップルウッド社の所有・経営のもと、スターウッドグループのシェラトンによる運営が開始され(2002年1月10日、既存の外資系ホテルから精鋭が呼び集められた。
 地方の日系チェーンホテルでも、ベテランの部・課長を更迭し、外資系ホテルから30歳前後の若手のスタッフを登用、抜擢し再建をはかっている事例もある。
中高年の人事リストラの反面、若く優秀な人材は求められているのだ。
 どんなホテルに入るからではなく、どんなホテルマン、ホテルウーマンになりキャリアアップをはかるかが問われる時代となった。人事システムなきホテル企業に、明日のホテリエは育つことはない。