TOP】 【仲谷塾とは?【塾長の経歴】 【塾長の主な活動・業績】
塾生紹介】【エッセイ・論文集】 【掲示板】 【メール】

 

仲谷塾長のエッセイ・論文集M

 

情報誌HOTEL2002年3月号


仲谷秀一のやさしいホテル経営学講座
第2回「組織運営構造入門」

 

■ ユニフォーム・システムと組織運営構造の関係って?

 第一回ホテル経営学講座では、国際的チェーンホテルで広く採用されている"ユニフォーム・システム(統一ホテル会計基準)"について皆さんと考えてみました。 その際お話いたしましたように、ユニフォーム・システムには、二つの役割があります。一つは勘定科目と用語解釈を統一し他ホテルとの経営比較を容易にすること、今一つは、ホテルの事業収益性を把握するための管理会計としての役割です。
 そこで、第2回目の今回は、2番目の役割、事業収益性に関わる組織運営構造について考えてみたいと思います。
 前回も指摘しましたようにホテル運営における収益性向上の可否は、経営階層毎の収益ユニットに人事権や、予算執行権が与えられているかどうかがポイントになってきます。グローバルスタンダードのホテルビジネスモデルでは、3段階の収益ユニット、オーナー、総支配人、部門長が階層別に収益管理を行ないます。それぞれの階層で人件費にかかわる人事権、販売促進、営業・管理経費にかかわる予算の執行権なくしては、結果はだせません。車の運転に例えると、これらはアクセルとブレーキにあたります。組織運営構造は、アクセルとブレーキに"意思決定"動力を伝える機械系統、ユニフォーム・システムは、メーターパネルかもしれません。 日本のホテル経営において収益性が上がらないのは、実はメーター(会計システム)ではなく、機械系統(組織運営構造)の問題といえます。それでは、日本の組織運営構造の問題点を探ってみましょう。


■ 社長と総支配人の仕事は、どう違うの?

 本来、総支配人は、カンパニー制度におけるプレジデントや、事業本部制の事業本部長にあたり、資本調達・管理を除く社長が持つ事業執行権の殆どを委ねられています。グローバルスタンダードでは、総支配人とは、オーナーの経営代行者であるといえます。外資系ホテルでは、オーナーのホテル運営子会社に、オーナー代理として出向した社長が、日常の運営について、総支配人に指示命令することは、契約上ありえません。
  一方、日本のホテル会社では、社長を筆頭に、管理担当の副社長と営業担当の専務が並列し、営業担当専務が総支配人と称していることが多いのです。これでは、専務兼総支配人が人事、財務にまつわる案件を容易に執行できないのは言うまでもありません。 それでは、これからの日系ホテル企業はどう対処したらいいのでしょうか。
  まず、ホテル経営では、意思決定プロセスをシンプルにすることが必要です。 単純な事例として1社1ホテルの場合では、総支配人が社長を兼務するのも一案です。 ホテル事業は、極めて専門性が強く、消費者視点ではファション産業に近いと言えます。まずホテルのプロに経営を任せることを考えるべきでしょう。親会社からの出向組や、異業種参入組の社長が総支配人を兼務する場合ですと、ホテル事情に精通していない場合が少なくないため、ホテルプロパー出身で感性高く、かつマーケティング志向が強い若手ホテルマンを補佐官に迎える必要があるでしょう。内部登用や、スカウトが難しいならアウトソーシングも可能な時代でもあります。
  いずれにしましても、ホテル経営には、経営能力に加えてファションブランドを創出することができる感性が求められます。新生シーガイアのホテル運営受託で話題のスターウッドグループのスターンリヒトCEOは、元々不動産投資会社出身ですが、6年前若干35歳でウェスティン、続いてシェラトンの2大ブランドを買収すると、1998年には、自らのライフスタイルと感性をベースにプロデュースしたスタイリッシュホテル"W"ブランドをリリース、従来型の画一的なホテルコンセプトにない次世代モデル創出に成功しました。異業種参入であっても、ホテルビジネス適応の好事例ではないでしょうか。


■ 外資系ホテルの組織運営構造は完璧なの?

 以上みてきましたように、グローバルスタンダードに基づく外資系ホテルの組織運営構造に一日の長がありそうですが、実はそんなに簡単ではありません。
 ホテルのプロフィットセンター(収益部門)は、大きく宿泊、料飲部門に大きく分かれ、その他部門が付帯します。ここで問題なのは、外資系の組織が本来宿泊部門主体につくられていることです。海外ではホテル売上の70%が宿泊であれば、いたしかたがないのですが、日本では、料飲部門が逆に70%を占めています。したがって、宿泊主体の海外とは異なり、日本の場合、収益管理を密にするには、料飲部門の強化が必要となります。
  では、どのように料飲部門を強化し、収益部門を再構築したらよいのでしょうか。 

□ 料飲部門の分割
 料飲部門は、まず宴会とレストランに大別すべきでしょう。売上ボリュームの大きい二つの部門を、それぞれをプロフィットセンターとして独立させるのです。 ここでネックとなるのが、宴会部門です。なぜなら、宴会部門の場合、調理、サービス、予約を宴会部門が、販売はセールス部門が受け持ち、運営責任と売上責任が異なった部署にあるからです。これではプロフィットの責任を負うセンターとして機能しません。それでは、どうしたらいいのでしょうか。

□ セールス部隊の再編成
 ここでは、独立したセールス部門の存在が問題です。対応策として、セールス部門を発展的に解消し、宴会セールスと宿泊セールを、それぞれ宴会部、宿泊部に分割、吸収したらどうでしょう。これで、宴会、宿泊それぞれの販売(売上)、運営(経費)が一元化されたプロフィットセンターとして、完成度が高いものになります。ここで重要なのは、プロフィットセンターとして確立した宴会の部門長や、宿泊の部門長は、従来の運営スキルに加え攻撃型営業の資質を要求されることです。

□ 総支配人室の強化
 つぎに、セールス部隊の再編の次にマーケティング部門について考えてみましょう。これまで法人需要に関心が高かった日本のホテルも、時代とともにレストラン、ブライダルなど個人消費に密着しようとするケースが増えてきました。そのような国内ホテルでは、外資系、日系を問わず、日常的な営業戦略・戦術をきめ細かくタイムリーに実施することが必要です。
 そこで、マーケティング部門を、宿泊、料飲の営業分析に加え、さらにその対応策である、営業制度、価格政策、営業企画、PRを総合的に行なう営業意思決定の中枢機関としての「総支配人室」として位置付けてみてはどうでしょう。日本の複雑なマーケットに対応するには、総支配人に直属し、各プロフィットセンターをサポートする「総支配人室」自体が、新たな日本型ホテル組織運営構造における、執行機関としての総支配人にならなければいけないのかもしれません。
  以上お話しましたホテル組織運営構造は、近未来の国内ホテルの、あるべき形の一部にすぎません。それぞれの時代における、ホテルの経営環境、マーケット、方向性に応じて、一番よい運営組織デザインを模索する姿勢こそ、求められているのではないでしょうか。

参考資料:
組織運営構造展開図
(Power point)