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仲谷塾長のエッセイ・論文集I

情報誌[HOTEL]2001年9月号

「仲谷秀一のやさしいホテル経営学講座」
第1回「ユニフォームシステム(統一ホテル会計基準)入門」

 

■ユニフォームシステムって何?  

 ユニフォームシステムは、ホテルの制服レンタルシステムと間違えられそうなぐらい、日本のホテル業界では今一、認知度は高くありません。しかし、ヒルトン、マリオット、スターウッド、バスを初めとする世界的なチェーンホテルでは、ユニフォームシステムを採用していない会社がないほどです。

 それでは、ユニフォームシステムの二つの重要な役割について考えてみましょう。 ユニフォームシステムは、正式には、"Uniform System of Accounts for The Lodging Industry"と呼ばれ、これと同名の会計教本が出版されています。直訳すると、「宿泊産業統一会計基準」となります。そして、このUniform(統一)という言葉が大きな意味があるのです。ホテルの会計制度を、共通の勘定科目とその用語解釈で統一することにより、ホテル間の財務内容を比較することが容易になります。ホテル所有・経営と運営が分離分業することが多い欧米にあっては、オーナー(所有・経営)が、ホテル運営を委託すべきオペレーター(ヒルトン、マリオットなどのホテル運営会社)を選ぶ際や、オーナー同士のM&Aの際に、共通した会計基準が不可欠なのです。これがユニフォームシステムの第1の役割です。次に第2の役割について、考えてみます。 ユニフォームシステムの重要な役割は、ホテルの事業収益性を把握するための管理会計であることです。 ユニフォームシステムは、もとより実務家自身によって考案された会計基準ですから極めてシンプルで運用しやすく作られています。


■ユニフォームシステムの活用、階層別収益管理とは?

 それでは、外資系ホテルの事例をもとに、管理会計としてのユニフォームシステムの活用について考えて見たいと思います。ユニフォームシステムの財務諸表そのものは、一般的な財務会計の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などと同様ですが、より重要であるのは、付帯資料にある部門別損益管理表です。 部門別損益管理表により、部門長、ホテル運営会社から派遣された総支配人、オーナーの、3段階の経営階層ごとに収益管理が可能になります。


●部門長の収益管理

 まず、収益管理の第1段階は、部門別管理です。ホテルの収益部門(プロフィットセンター)は、大きく宿泊部門、料飲部門、その他部門にわけられます。各部門では、それぞれの部門長(部長)がコントロール可能な、原材料費、直接人件費、直接販管費などの部門費用と部門売上とのバランスが部門利益(Departmental Profit)であり、部門長がその収益責任を負います。全館にかかわる経費や、管理部門の経費は、この段階では収益部門に配分されませんから、部門長は心置きなく、自部門の売上増、コスト削減に傾注できます。


●総支配人の収益管理

 次に第2段階は、総支配人の収益責任です。総支配人は、各部門費用の合計に加え、人事、経理、総務などの管理部門(コストセンター)や、現場をサポートするセールス&マーケティング部門の人件費、光熱費をはじめとする間接販管費など非配賦費用の総合計とホテル総売上のバランスである通称GOP(Gross Operating Profit)の責任を負います。総支配人は、資本調達、資産所有、経営にかかわる税、金利、減価償却費などの資本費負担から開放され、ホテルの事業性を高め、収益増をはかることに思う存分腕をふるえるのです。GOPに直接的に影響する全館光熱費のコントロールは総支配人の専権事項であることから、エネルギーの節減には、特に目を光らせます。


●オーナーの収益管理

 最後に、オーナーは、GOPから、税、金利、減価償却費、マネジメントフィ(運営管理委託料)を控除した最終利益が責任範囲となります。オーナーは、ホテルの事業収益性のバロメーターであるGOP達成を総支配人に委ねることにより、大所高所から運営を監視するだけで利益を確保することができます。従って、オーナーにとって一番重要な仕事は、自らの資産を運用して、最大の事業収益をもたらしてくれる総支配人や、その派遣元であるホテル運営会社を選択することなのです。このように、ホテル経営、運営にかかわる各階層ごとに、収益構造上の責任範囲があきらかになり、成果主義による評価システムと連動して、目標に対する達成意欲は一段と向上します。


■日本で何故、ユニフォームシステムが定着しないのか?

以上述べましたように、ホテルの事業収益性をたかめる上で、ユニフォームシステムの導入が有効であることは明白なのですが、日本のホテル業界では、十分定着しているとは言えません。まだまだ、その有効性を疑問視するホテル会社も多く、一旦、ユニフォームシステムを採用しても、上手く活用できていないのです。 では、ユニフォームシステムが日本のホテル業界で定着しない原因は、どこにあるのでしょうか。実は、ユニフォームシステムには、隠れた導入条件があり、その条件が満たされないため、このシステムが上手く機能しないのです。その隠れた導入条件とは、運営現場に対する人事権と予算執行権の大幅な委譲です。

 このことは、前述のユニフォームシステム教本には記載されていません。 と言うのも、人事権や予算執行権が現場にあることが前提の欧米のホテル経営では、教本にあらためて盛り込む必要のない事項なのです。 しかし、人事部門に人事権が集中している旧来の日本型ホテル経営では、部門長はおろか、総支配人にも、人事権が付与されていないことが少なくありません。 また同様に、すべての経費予算決裁権が、経理部門が窓口であり、迅速な売上施策の実行を困難にしています。このような状態では、階層別収益管理の上で、部門長、総支配人は十分に、費用と売上をコントロールし、利益を確保することができません。ユニフォームシステムそのものは、本来会計システムですが、日本におけるその導入、定着には、まず、人事システム、予算管理システム、意思決定システムの改革が基本思想にあるべきだと思います。 もう一つの、日本におけるユニフォームシステム導入を困難にしている原因は、宿泊売上が大勢をしめる欧米のホテルと異なり、日本の平均的な都市型ホテルでは、料飲部門売上の構成が70%を占めることです。

宿泊中心の欧米のホテルで考案されたユニフォームシステムを、料飲部門が複雑化な日本のホテルに導入するには、部門毎にそれぞれの売上と費用のきめ細かな管理が必要となります。日本に進出した外資系ホテルの多くもこの点で苦慮しています。 このように、ユニフォームシステムの日本的な着地には、まだまだ課題が多いですが、次回「組織運営構造入門」で、料飲部門の管理も含めて、この問題解決を探っていきたいと思います。

 

●参考資料:「スタットラーとユニフォームシステム」

 ユニフォームシステムは、近代ホテル経営の創始者とも言うべきエルスワース・M・スタットラー(1863年〜1928年)を委員長として制定され、1926年米国ニューヨーク市ホテル協会により初版が出版されました。以来9版の改定を重ね、現在は全米ホテル&モテル協会、国際ホスピタリティ会計士協会の認定を受け、世界のホテル会計のスタンダードとなっています。また、スタットラーは、20世紀初頭の米国にあって、ビジネスマンが快適、清潔、便利に利用でき、かつ値ごろ感のあるホテルチェーン作りに成功し、折からの交通機関の発達と相まって、都市間の交流を促進し、米国産業界の隆盛に貢献しました。スタットラーは、次代のホテル経営者育成にも情熱を燃やし、世界的に著名なコーネル大学ホテル経営学部の創設とその後の発展にも貢献しました。また、スタットラーの死後、スタットラーホテルチェーンはヒルトンに受け継がれました。