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仲谷塾長のエッセイ・論文集H

 

「産業新潮」2001年8月号掲載

「大阪発、2001年ホテル事情」

大阪学院大学 教授    仲谷秀一  

 

大阪のホテル業界が、久しぶりに活気を取り戻している。 USJ効果により宿泊部門が予想以上に好調なのだ。 本年4、5月の主要ホテルの平均客室稼働率は86.4%で、前年対比8.8%増と、ほぼ全面高。 大阪市内ホテルがこぞって客室稼動を上げたのは、おそらく1989年の花博(大阪鶴見緑地、2000年淡路花博とは別)以来ではなかろうか。 稼動率のみならず、平均客室販売単価も前年比プラス12.9%と上がった。 総売上ではじつに平均25.7%の大幅増となりホテル幹部は、大きく安堵の一息をついたところだ。 それほど、ここ3年、大阪のホテル業界は、極度の業績不振に陥っていた。

1999年3月、大阪の老舗2ホテルが、暖簾をおろした。 かつて、ロイヤルホテル(大阪・北区、現リーガロイヤルホテル)と大阪のホテルマーケットを2分した名門ホテルプラザ(大阪・北区)、40年余の歴史を誇った大阪コクサイホテル(大阪・中央区)の2ホテルだ。 また今年に入り、USJの開業をまたず、堂島ホテル(大阪・北区)、大阪後楽園ホテル(大阪・中央区)が相次いでに休・廃業した。 バブル崩壊後の、出張経費の削減、法人宴会利用の低迷、個人レストラン需要の冷え込みは大阪のホテル業界を直撃し、これらのホテルは毎年のように、損失を重ねてきたのだ。 老舗3ホテル廃業の引き金は、2001年度からの導入が決まった新会計基準であったのだろう。 連結決算、時価会計対策として親会社や有力債権者の意向が動いたことは想像に難くない。 また、バブル崩壊後リニューアル開業した堂島ホテルの場合は、この時期の新規ホテルの例にもれず、過剰投資の結果であることは言うまでもない。

  この他にも、1999年中に、大阪地区のホテル上場会社、ロイヤルホテル、新阪急ホテルの2社が相次いでグループホテルの不良債権処理のため、本社ホテル土地建物の証券化を余儀なくされた。 さらにロイヤルホテルは、去年から今年にかけニューヨーク、成田のグループホテルを売却し、本年の株主総会で130億円の資本金を30億円に減資することを決めた。 バブル期をはさみ同社は20年前の資本規模に帰り、再出発を期することとなったのである。

  ここ10数年来、大阪、神戸へ進出した東京の御三家、帝国ホテル、ニューオータニ、ホテルオークラの3社もまた例外でなく、地域マーケットで苦戦を強いられている。 世界都市として、世界各地、日本全国から集客可能な東京と異なり、大阪は、巨大なローカル都市である。 首都圏営業に慣れ親しんだ東京系ホテルには、地域対応は容易ではなく、本社の経営にも少なからず影を落としている。

このように、大阪のホテル業界を取り巻く経営環境は極めて厳しい。 しかし、前述のロイヤルホテルをはじめ、新阪急ホテル、日航ホテル大阪(大阪・中央区)など主要ホテルでは、50歳代の若手社長や役員への世代交代を着々と押しすすめ、積極的に経営改革を押しすすめようとしている。 経営の刷新は、時代の要請とはいえ、大いに評価できる。

 巻き返しをはかろうとする大阪のホテル業界にとって、USJ開業はまさに千載一遇の好機となった。 このチャンスにかけ各ホテルとも自らの特性を生かし、あの手この手の施策を練り上げ実行した。 大阪での個人客人気を独占した感のある外資系の雄、ザ・リッツ・カールトン大阪(大阪・北区)は、強気に単価アップを狙った。 客室料金を平均4〜5,000円の大幅値上げする作戦にでたのだ。 地元老舗リーガロイヤルホテルは、3億5千万円をかけ、1000室の内100室を家族対応客室に改装し対抗した。

  また、新阪急ホテルは、アジア系観光客の誘致にむけて、韓国語、中国語の客室内放送を開始。 東洋ホテル、ホテル阪神(いずれも大阪・北区)では、一人部屋を二人使用するエコノミーツイン、ダブルでビジネス客依存型ホテルからの脱皮をはかった。 大阪市内からのアクセスの悪さの故、長年集客に苦しんだ南港、ハイアットリジェンシーオーサカの策は、より戦略的だ。 USJまで10分でつなぐ海上バスを運行、見事にアーバンリゾートホテルに生まれ変わった。

  既存のホテル群に対抗して、夏休みを前にUSJ周辺への新規ホテル出店があいつぐ。7月18日、USJ正面ゲート横に、ホテル近鉄ユニバーサルシティ(456室)、とホテル京阪ユニバーサルシティ(330室)が開業。 ともに宴会場はなく、客室主体のUSJ依存型ホテルだ。団体客、家族客を中心に夏休み前半の予約は満室状態という。来年春には、この2ホテルの向かいあってホテル日航ベイサイド大阪(641室)も開業する。 USJ周辺3ホテルが出揃うと、市内シティホテルの12%にあたる客室増となる。 市内のホテルに大きな脅威となろう。しかし、一方では、大阪ヒルトン、グランヴィア大阪、駅前第一ホテル、新阪急ホテルの大阪駅前のホテル群からUSJまでわずか15分。 USJ周辺ホテル群がかならずしも有利とは言えない。

  つかの間の好況を甘受した大阪のホテル業界に、新たな暑い戦いが、はじまろうとしている。