ホスピタリティ・エッセイ @
=いまSERVICEからHOSPITALITYへ=
大阪学院大学
教授 仲谷秀一
● HOSPITALITYって、どう言う意味?
HOTELと言う、耳慣れた言葉も、現在の意味に使われだしたのは結構あたらしく、
18世紀終わり頃のフランスだと言われています。「ベルサイユのバラ」で
おなじみのフランス革命の時代ですね。 本来HOTELは、「公共の大きな建物」
「貴族の館」の意味に使われていました、これも現在のホテルの性格づけに
大きく影響しているようです。 HOTELのルーツをたどりますと、ラテン語の
hospitalisと言う言葉に行きつきます。hospitalisの意味は「旅人を
手厚くもてなす」と あり、これが現代英語のHOSPITALITYに通じています。
HOTELとHOSPITALITYは 共通の祖先を持っているのです。
パリのホテル大学では、学生達に
「ホテルマンはMarchand de Bonheurであれ」と教えています。
Marcahnd de Bonheurとは日本語で「幸せ売り商人」と言う意味ですが、
シャンソンの一節のようなこの言葉も、ホテルやホテルマンのあるべき姿を
よく言いあらわしていると思います。 「訪れる人に一夜の宿を供し、厚くもてなし、
元気一杯にして送り出す」これがHOTELの目指すところであり、HOSPITALITYは
その精神なのです。ラテン語のhospitalisはHOTELのほか、
いろいろな言葉へと派生していきましたが、その一つにHOSPITALがあります。 HOTELが健康な人の「元気回復」を目指すのなら、HOSPITALは
心身を病んだ人の「精神的、肉体的回復」を目指すのでしょう。
HOSPITALもまた、HOSPITALITYの精神を基本として
運営されているのだと 思います。
● SERVICEとHOPSPITALITYは、どう違うの?
またまた言葉のルーツをたどりますが、SERVICEの祖先は、ラテン語の
servusです。 これは、英語のservant(奉公人、召使い)、
ちょっと面白いところではsergeant(米国陸軍軍曹)に派生していきます。
かっての人気TV映画「コンバット」のサンダース軍曹を思い出してください。
いずれにしても、命令を「忠実、正確、迅速」に遂行することがその精神なのです。
もうおわかりのように、SERVICEは上下関係のはっきりした、
絶対的服従の世界の産物で、基本的に受身の発想です。
それに対しHOSPITALITYは、相手と対等の関係の中で、「相手の望むものを
見つけ、相手を喜ばせるために、積極的に取り組もう」と する
心の持ち方なのです。 別な見方をしますと、SERVICEは量的なものであり、
HOSPITALITYは質的なものと言えます。
● 日本のホテルはSERVICEの達人?
日本のホテルは、SERVICE技術では、世界でも最高水準にあると思います。
でも、皆さんが海外旅行された時に出会うホテルの従業員達の陽気さや、
人なつっこさと比べるとちょっぴり堅苦しいなと思われることがありませんか。
それは、どうやら日本のホテルの生い立ちと関係があるようです。
日本の名門ホテルの多くは、今年創業110年を迎える東京の帝国ホテルが
ルーツであると言っても良いぐらい、少なからず影響を受けています。
例えば、大阪のリーガロイヤルホテルの前身である 新大阪ホテル
(昭和10年開業)は、当時、帝国ホテルの経営者であった犬丸徹三氏の
アイデアが随所に盛り込まれていましたし、初代支配人以下主要スタッフは、
帝国ホテルから派遣されました。 同様に、ほぼ同時代に開業した
名古屋観光ホテルもまた、帝国ホテルの協力によって出来あがりました。
また、帝国、ニューオータニの両ホテルとならんで御三家と呼ばれる
ホテルオークラにしても、戦前帝国ホテル社長であった大倉喜七朗氏が、
戦後財閥解体で社長の椅子を追われた後、帝国ホテルをしのぐホテルを
目指して作ったと言った具合です。 では、日本のホテルに多大な影響を
あたえた帝国ホテルがどのようなホテルかと言いますと、明治23年、
明治政府の意向で諸外国の貴賓客をもてなすため、国の威信をかけ迎賓館と
して 国策的に作られたホテルでした。この流れをくむ日本のホテルは、貴賓客に
奉仕するフォーマルで伝統的なSERVICEを得意としているわけです。
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