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仲谷塾長のエッセイ・論文集E-1


「日本のホテルチェーン再生に不可欠なブランド再構築」

「週刊ダイヤモンド」2000年12月9日号掲載
著者オリジナル版

 

〇 この10年の間に相次いで日本に進出した外資系ホテルは、
ビジョンと運営システムに裏打ちされたブランド力に特色がある。
ホテルの現場を熟知した筆者が、ブランド構築の重要性を説く。

 日本の「ホテル史」は、明治23年(1890年)開業の帝国ホテルから始まった。 明治政府が、鹿鳴館と共に、その国威を世界に示すために創り上げた帝国ホテルは、日本の迎賓館として今尚、伝統と格式を誇っている。その後も、このホテルは、地方にも迎賓館をと地元の強い要請で創られた新大阪ホテル(1935年開業リ―ガロイヤルホテルの前身)や名古屋観光ホテル(1936年開業)、そして帝国ホテルに追いつき追いこすことを目標に創業したホテルオークラをはじめ多くの
ホテルに影響を与え続けた。

東京オリンピックの前後、60年代の第一次ホテルブームからバブル期までは、高級ホテルは、「ホテルらしくある」だけでお客を集めることができた。普段の生活を越えた非日常性がホテルの「売り」であり、その敷居の高さ、宿泊やレストランの料金の高ささえ格式と評価された。日本のホテルは、"ホテル"という名の単一
ブランドであり、そのコンセプトは"伝統と格式"であったといえる。

 

〇 マリオットの戦略を支える多彩な12ブランド

 しかし、現在は様相がかなり変わった。と言うのも相次ぐ外資系ホテルの進出によって、消費者がホテルの真価を知るようになったからだ。
バブル崩壊後の不振にあえぐ老舗ホテルを尻目に、快進撃を続けるフォーシーズン椿山荘、パークハイアット東京、ウエスティン東京の新御三家、ザ・リッツ・
カールトン大阪の外資系ホテルは、ホテルブランド多様化時代の到来を示している。もはや、単一ブランドの時代は、終わった。これらの外資系4ホテルのブランド力は、ファッション業界におけるルイ・ヴィトン、シャネル、グッチ、エルメス等の
スーパーブランドに匹敵するといえる。
今や、ホテルはファッションに限りなく近づいた。 海外においてホテルブランドは、よりパーソナライズされ、大胆にデザインされたブランド群へと進化を遂げている。ファッションブランドが人々の生活彩る"舞台コスチューム"であれば、ホテルブランドは、その"ステージ"であろう。

日本マーケットにおいても、ユーザーの心を掴んだかのように見える外資系ホテルブランドとは、どのようなものであろうか。 米国ワシントンDCに本社を置くマリオット社(Marriott International, Inc.)も、ホテルマネジメント会社として、全世界で2,000以上のホテルを運営する。 これを支えるのが、マーケットのセグメンテーション(区分)毎に構築された12種のホテルブランドなのだ。   
ホテル経営においては、対象マーケット、立地、事業目的に応じて、どのようなホテルがふさわしいのか、そのポジショニングを明確にすることが重要である。 そして、それぞれのポジショニングに応じたホテル・コンセプトを、ユーザーがより容易にイメージすることを可能にするためにブランドが存在する。

マリオットの場合、世界各地のオーナーが所有する、まったく異なったポジショニングのプロパティに、The Ritz-Carton, Marriott, Renaissance ,Ramada, Courtyard など10種のブランドで対応する。サービス・グレード毎に、超高級、高級、中級、エコノミー、バジェットの5段階にクラスわけし、更に多機能、単機能、長期滞在など機能属性、商用、リゾートなど目的属性を付加した多様なブランドは、どのようなプロパティにも適合できる。こうしてマリオットの多彩なブランドメニューは、世界各地のあらゆるオーナーやユーザーの二―ヅを満たすべくフルラインアップされているのである。

フルライン戦略で勢いにのる、マリオット社に対し、米国スターウッド社(Starwood Hotels & Resorts Inc.)は、新しいブランドを構築することで応戦する。Westin, Sheratonの2大ブランドを初め、6ブランドを有するスターウッドは今、斬新な切り口の新ブランドを急ピッチで展開しはじめた。1998年12月、ニューヨーク市レキントン街にリリースした高級ブティックホテル「W」である。"スタイリッシュ"をコンセプトに、ターゲットを20代後半から30代後半の、次世代のエグゼクティブに絞り込んだ、このユニークなブランドは、この秋には全米を中心に13軒を数える。これほど一世代の特化し、その感性、ライフスタイルにこれほど迫ったホテルブランドは、
かつて存在しなかった。

さらにもう一方で、スターウッドは、超高級ブランドへの進出をも目指す。1904創業のニューヨークの名門ホテルSt.Regisをブランドネームに採用したのである。世界各地の老舗ホテルを、この由緒ある名前で統一し、今年中には8軒とする。 Westin, Sheraton両ブランドからワンランクアップを目指し、これまた次世代ブランドとして、Four Seasons, The Ritz-Cartonへの対抗ブランドとして投入されたものである。
現在このようなインターナショナル・ホテルの経営は、受託運営に特化したソフト産業として巨大化している。所有と運営は切り離され、ホテル運営会社はプロパティのオーナーと運営受託契約を結んでチェーンを拡大する。この拡大、成長のためにも、多ブランド化は不可欠な戦略なのである。

一方、日本では、資産格差がさほど大きくないために、国内チェーンを展開するかぎり、ターゲット別のブランド戦略の必要性は今まで薄かった。しかし、外資系ホテルが攻勢を強める現在、あらためてブランド価値を考え直すべき時にきている。