「日本のホテルチェーン再生に不可欠なブランド再構築」
「週刊ダイヤモンド」2000年12月9日号掲載
著者オリジナル版
〇 ホテルブランドを構成する要件
ホテルブランドを構成するファクターは、ビジョン、ポジショニング、立地、運営システム、人材、ハード・ソフトの表現力、そしてブランドネームとなる。
そしてそれを構築するベースは、ビジョン(経営理念)にある。どのようなホテルにしたいのか、経営トップの強い意志とマーケットを先読みする力が要求される。またビジョンは、従業員、オーナー、ユーザーの共感を呼ぶものでなくてならない。
たとえば、The Ritz-Cartonのビジョンは、徹底した顧客志向のホテルを目指すことであり、そのための従業員満足の思想を追求することにある。 マリオット社がThe
Ritz-Cartonを傘下におさめたのは、お互いのビジョンに共通点を見出し、より大きな相乗効果を生むことを期待してのことだった。
ポジションニングは、立地により大勢が決まる。ここで重要なのはマネジメント会社やオーナーが立地を生かせるポジショニングを選択できるかどうかである。ビジョンとポジショニングを確立するうえで、運営システムと人材が重要なのは言うまでもない。ところが日本のホテル経営の場合、高度成長に支えられて自然発生的に運営スタイルが定着してしまい、そのために、運営責任者である総支配人の育成が遅れてしまった。ブランドを安定的に成立させためのベースになる経営の仕組みが日本のホテルにはないと言っても過言ではない。
外資系ホテルブランドの魅力は、内装と外装、とりわけ備品、アート、照明の表現力だろう。 もし今後日本のホテルが、個人ユーザーを意識し、その消費トレンドをライフスタイルのなかに自らの活路を見出そうとするなら、これらがもっとも重要なポイントとなる。
とは言え、ブランドネームの統一は、日本のホテル会社でも十分意識されている。しかし問題は、日本の大部分のチェーンホテルにおいて、ブランドネームだけが意識されていることだ。
今年、経営破綻した第一ホテルの場合も、ブランドネームに頼ったチェーン展開だった。ビジネスタイプから高級シティホテルまで、ポジショニングのまったく異なった46のホテル郡を、一つのブランドでくくるのはマーケティング戦略上、無理があったのではないか。
支援に立ち上がった阪急電鉄にしても、自らのホテル事業再編成が緒についたところであり、ブランド再構築の道筋はいまだ見えない。ブランドは、決して名前だけで構築されているのではない。少なくとも、ブランドネームだけで、お客を呼べる時代は終わった。