TOP】 【仲谷塾とは?【塾長の経歴】 【塾長の主な活動・業績】
第一期塾生】【エッセイ・論文集】 【掲示板】 【メール】

仲谷塾長のエッセイ・論文集F


『21世紀のホテル経営を目指して』

大阪学院大学 流通科学部 教授 仲谷秀一
 「財界」 2001年3月5日掲載

 

 21世紀の幕開けとはいうものの、ホテル業界を取り巻く環境は、極めて厳しい状況といえる。他業種におけるのと同様、連結、時価会計の荒波は、バブル期の不良ホテル資産の処理にあえぐ親会社に容赦なく、襲い掛かる。相次ぐホテルの経営破たんは、都市型ホテルからリゾートホテルまでおよび、その範囲は、首都圏のみならず全国規模で広がっている

 日本のホテル産業に、もはや、明日はないのであろうか。 いや、そう悲観することはない。最近の国産チェーンホテルの動きに、再生への確かな道筋が見え始めたからだ。その道筋と、方向性を探ってみることにする。国内外にチェーン展開する日本のチェーンホテルの多くは、電鉄、航空会社によるものである。今、これらのホテル会社が、大きく経営の構造改革をおしすすめようとしているのだ。そして、その枠組は、所有と運営の分離にある。

 従来のホテル会社の多くは、自社で土地建物を所有し、直営する方式をとってきた。 このように、日本のホテル会社は、内に不動産業とホテル事業を共存させていたといえる。資産が不良債権化し、有利子負債が経営を圧迫する状況下では、不動産業部分が、少なからずホテル事業の成長を妨げてきた。

 一方、国産ホテルの低迷を尻目に、快進撃を続ける外資系ホテルは、過去数十年間、ホテル事業ソフトに特化した運営会社としてノウハウを集積しながら成長拡大をつづけてきた。これらのホテル運営会社は世界各地のホテルオーナーと、委託契約を結ぶことにより、オーナー達を面倒なホテル運営から解放するとともに安定した利益をもたらしている。

 日本国内で進行しているホテル構造改革においては、オーナー(所有)とホテル運営会社(運営)を人工的に、同一グループ内で分離、分社化しようとする試みだ。不動産の呪縛から解き放たれたホテル運営子会社は、事業の収益性向上を目標に、経営改善をはかることが可能だろう。

 このような経営改革に、不可欠なのがITの導入である。ホテルは、もとより労働集約的産業であり、近年、社員の高齢化による人件費増が少なからず運営を圧迫してきた。 しかし、IT導入により、管理部門の省力化が計られ、ホテルの生命線ともいえるサービス・ラインへの人材投入が可能となる。 また、ある種のホテルでは、客室予約システムとインターネットを直結することにより将来的に、予約スタッフの無人化さえ夢ではない。

このように、光明が見え始めたホテル業界ではあるが、課題は多い。積み残した不良資産の処理、運営のプロである総支配人の育成、運営システムのグローバル化、と課題は山積している。
日本のホテル産業再生への挑戦は、まだまだ続く。